『機動警察パトレイバー』で描かれた近未来はどこまで実現した?

マンガ

更新日:2013/4/4

 3月21日から開催された東京国際アニメフェアで東北新社から『機動警察パトレイバー』の実写映画化が発表された。現時点では2014年に公開に向けてプロジェクトが始動したということしか明かされていないが、今後は同日に開設された公式サイト(http://patlabor-nextgeneration.com/)から情報が発信されていくことになるだろう。果たして実写版はどういった内容になるのか? CGを駆使すると予想されるレイバーがどのような挙動を見せてくれるのか? 「2ちゃんねる」などではキャスティング予想として、主役メカのAV-88イングラムを操縦するレイバー好きの熱血ヒロイン・泉野明の配役に同じショートカットの剛力彩芽を推す声が出て盛り上がっているようだ。

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 『機動警察パトレイバー』とは、1988年から週刊少年サンデーに連載された歩行式のロボット=レイバーを題材としたマンガである。当時としては珍しく、オリジナルビデオアニメ(OVA)の展開もほぼ同時期に行われており、他に小説などいわゆる“メディアミックス”の走り的作品として展開された。その人気は瞬く間に上昇し、翌1989年夏には劇場アニメ化。秋には全47話のTV放送が開始され、OVAの続編や2作目の劇場版が公開されるなど、1990年代を代表する伝説的なコンテンツへと発展していった。

 ポイントの一つとなっているのは“西暦2000年前後”という時代設定。当時からしてもかなり近い未来となっている。そこではレイバーが自動車に代わる存在として幅をきかせ始め、レイバーによる犯罪も起きるようになっていた。それを取り締まるために警察も高性能のレイバーを導入。それがパトカーと同様のネーミングによって「パトレイバー」と総称されているのである。

 歩行型のロボットを題材とする作品は、どれも1970年代から1980年代にかけての代表作である『機動戦士ガンダム』の影響を強く受けている場合が多いが、パトレイバーはガンダムによって確立された“リアルなロボット”を軍事ものから警察ものに移したことで、より日常生活に密着した内容であったことが新鮮だった。

 物語上で想定されている2000年前後をすでに10年以上過ぎてしまった現在となっては、1990年頃の人が近未来をどのように予測していたのかを知ることができて、なかなか興味深い。また、1995年には東京に大地震が発生したことになっており、東京湾は「バビロンプロジェクト」という大規模な湾内埋め立て事業によって、その瓦礫処分も踏まえて埋め立てが進められているのだ。東京湾の大規模な埋め立てについては、リアル社会においても「フェニックス計画」など1980年代まで実在していたものがあったというから、あながち脳天気な未来予想というわけではないだろう。

 ロボット技術については、物語では多足歩行の技術が画期的に進歩したことでレイバーが実用化されているが、実際にHondaが開発している二足歩行ロボット・ASIMOの存在などを見る限り、将来的には大型の歩行ロボットが登場する可能性はあるだろう。

 マンガやアニメ作品で遠い未来を想像した架空の世界設定は数え切れないほど存在しているが、遠いようで近い10年後を想定し、なおかつ現実と非現実とのギリギリの線を狙った作品は少ない。しかも、レイバーのような歩行ロボットがまだ現実に登場していないせいか、設定年代を越えた今でも近未来感はしっかり残っているのだから不思議な作品である。

 肝心のストーリーはというと、パトレイバーを運用して任務にあたる警察の特車二課が舞台となっている。そこには、ヒロインの野明をはじめ、パートナーとして指揮車両から野明に指示を出す篠原遊馬や、いつも飄々としている後藤喜一隊長など、個性的なメンバーが揃っており、普段は酔っぱらい運転のレイバーを取り締まったり、デモや展示会の警備など、いかにも警察的な仕事をこなす。

 しかし、一度大きな事件が起きれば、物語の柱のひとつでもある産業界の陰謀が絡んだ高性能レイバーや、未知の細胞の研究に端を発した未確認巨大生物などと本格的な戦闘を行う。その間、日本の縦割り体制や、レイバーを製造するメーカー、マスコミなどの介入など、登場人物達がそれぞれの立場で職務遂行にあたってぶつかる障壁に苦悩する姿も描かれている。ロボットものであると同時に若い警察官が日々奮闘する成長物語となっており、それらが作者ゆうきまさみの描く緊張感とユーモアが共存する独特の雰囲気の中で展開しているのも作品の魅力のひとつだ。

 そうした設定としての“リアル”と、物語としての“リアル”をともにギリギリの線で両立させているという点において、このパトレイバーを追随する作品はいまだ現れていないのかもしれない。いずれにせよ、作品の名前しか聞いたことがないという人も、今でも色褪せない原作コミックや映像を見てみるといいだろう。映像化が予定される来年2014年まで、まだ時間はおおいにある。

文=キビタキビオ