「ねずみくんの絵本」シリーズの誕生秘話。たくさんの原画のほか、子どもも楽しい仕掛けが充実の50周年記念展覧会〈イベントレポート〉

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/25

ねずみくんのチョッキ展

 1974年に『ねずみくんのチョッキ』が刊行されて以降、『ねずみくんからのおくりもの』まで41冊、累計490万部が世に出ている「ねずみくんの絵本」シリーズ。その50周年を記念する展覧会が東京・松屋銀座で6月3日(月)まで行われる。本記事では作者・なかえよしをさん、「ねずみくんの絵本」シリーズの大ファンという俳優・菊池亜希子さんを迎えて行われたオープニングイベントと展覧会の様子をリポートする。

50年を振り返るトークショー 菊池さんは『ねずみくんのチョッキ』にちなんだ衣装で登場

 オープニングイベントとしてまず行われたのはトークショー。なかえさんが「50年前といえば僕自身は30歳を少し過ぎて、仕事を辞めたばかりの頃。そんな時に『ねずみくんのチョッキ』が出たのですが、その時は絵本作家の仕事がこんなに長く続くとは思っていませんでした。それが編集者の方が「次、次」とどんどん言ってくれた。それが4、5冊続いたときにシリーズになるかもしれないとなって。編集者の方も上野(本シリーズの絵を描いていて、奥様でもあった上野紀子さん)ももう亡くなってしまったのですが、ここにいてくれたらどんなに嬉しいかなと昨日から考えていました」とこれまでの50年を振り返って挨拶をした。

 菊池さんは、自身の著書でも「ねずみくんの絵本」シリーズとの思い出を書いているほどの本作ファン。小さい頃に児童館に置いてあったシリーズを何度も読み返していた思い出を語ってくれた。また菊池さんはこの日、赤く編み目のかわいらしいワンピースを着ており、これはねずみくんの赤いチョッキをイメージして考えたとのこと。

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ねずみくんのチョッキ展

 ここで、なかえさんへサプライズで50周年をお祝いしたプレゼントが。

ねずみくんのチョッキ展

 中身は最新作『ねずみくんからのおくりもの』にちなんだ赤い水玉模様のマウスパッドとマグカップで、なんと世界にひとつしかない特注品。なかえさんは驚きながらも顔をほころばせていた。

なかえさんの創作の原点は『星の王子さま』

 続いて司会者から「創作で大切にしていること」を問われたなかえさんは、「20歳頃に読んだ『星の王子さま』の“大切なものは目に見えない”という言葉が頭にこびりついちゃって。僕はそれを“大切なものは目に見えないということは、目に見えているものは大切じゃない”と解釈したんです。でも世の中のほとんどは目に見えるもので判断されていますよね。だから『目に見えないものってなんだろう』と。それがずっと僕の作品のテーマになっています」と自身の創作の軸を語ってくれた。

 またアイディアに詰まったとき、編集者から「ねずみくんたちを冒険させればお話が広がるんじゃないか?」と言われたと述懐。その上で、「デザイナーだったときに学んだのは“シンプルイズベスト”ということ。シンプルとは余裕があるということで、シンプルな方が単純だけど面白いものができる。何も起きない日常の中でお話を考えるのは毎回同じで大変ですけど、大変なものを作った方が面白いかなとも思って」と、あえて毎回ねずみくんの日常で起きる出来事を書いていることへのこだわりも教えてくれた。

 菊池さんはそんなシリーズの魅力について、まず自身が行きつけである絵本屋さんから言われた「年齢より難しい絵本は読めない子がいるけど、その逆はない」という言葉を回想。そして「シリーズを読んで、本当にそうだなと思う。子どもも成長していく中でも何度も繰り返し読んでいますし、最近母が孫に読み聞かせながら自身も笑っているのを目にして。年を重ねてもまっさらな気持ちで絵本の世界に入っていける、自分の世界とつながっていくところがねずみくんの絵本の魅力だなと思います」と現在4歳と6歳の子どもを子育て中の菊池さんらしいエピソードを紹介した。

 後半には、菊池さんの考えた質問になかえさんが答えるコーナーも。12個も質問を考えてきたという菊池さんだが、特に「上野先生とおふたりで絵本を作っていらして、難しいと感じることはありましたか?」という質問へのなかえさんの答えが印象的だった。それは「自分は絵が下手でお話を作る方が得意、上野はその逆。お互いに完全に別作業で、相手の分野に口を出したことはありません。相談したこともないので、喧嘩になったことがないんです」という答え。菊池さんが「お互いを信じていらしたんですね」と受けると「信じるしかないですからね、僕は絵が描けないし、向こうもお話を考えられないから」となかえさんは笑いながら返事をされていた。

ねずみくんのチョッキ展

 2019年に上野さんが亡くなられて以降は、上野さんがこれまで描いてきたねずみくんの絵を、なかえさんがPCで加工する形で続いている本シリーズ。なかえさんは上野さんについて「パソコン上で原画を拡大して良く見てみると、結構細かく描いてくれて。彼女はとにかく絵が好きで、絵に関しては『描けない』と言ったことがないんですね」「鉛筆と油絵をこれだけ描き分けられる人は、プロでも少ないのではないでしょうか。それくらいすごい絵描きだったと今頃思っています」ともお話しされていて、なかえさんと上野さんがお互いを信頼し、公私ともに唯一無二のパートナーであったのだということがお話の端々からうかがえるトークショーだった。

 オープニングイベントの締めくくりはテープカット。こちらも最新作『ねずみくんからのおくりもの』にちなんだ水玉模様のテープがおふたりの手によってカットされ、展覧会が幕を開けた。

ねずみくんのチョッキ展

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