楽天は電子書籍において楽天市場の成功モデルを踏襲できるのか?

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更新日:2013/4/5

楽天ブックス×kobo――求められるのはビジョン

 既報の通り、日本国内での楽天ブックスとkoboの連携が発表された。予想されていた動きとはいえ、アマゾンに次ぐ大型ネット書店の新展開とあって、会場には多くの出版社が足を運んだ。

 

 

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 冒頭、1月から楽天ブックスとkoboを統括する舟木徹 執行役員・パッケージメディア事業長兼イーブックジャパン事業長より、楽天ブックスとkoboの統合について説明があった。その内容は一言で言えばアマゾンとKindleのそれをキャッチアップするものというのが分かりやすいだろう。楽天ブックスについては在庫の拡充と発送期間の短縮がアピールされ、示された画面イメージもどこか既視感のあるものだった。

 

 

 この画面のようにkoboへの導線が提供されることになる楽天ブックスにおいても、出版社へのフォローアップが行われるもあわせて発表された。それがSRP(Sales Relation Program)と呼ばれるものだ。

 

 

 あくまで有料であることがうかがえるが、アマゾンに対してよりきめ細やかなサービスを提供しようという意図は読み取ることができる(実際、紙の書籍においてアマゾンは在庫を極力絞り込んでおり、商機を逃すという例は散見される。ただし、電子書籍であればその懸念はなくなる)。

カラー端末の投入が大前提

 三木谷氏がアマゾンとの相違点だとする「バザール」型のモデルでは、楽天は強みを発揮しそうだが、電子書籍においてその成功モデルをなぞることができるのか、まだ戦略にちぐはぐな点も感じたというのが筆者の正直な印象だ。

 

 

 1つ分かりやすいところでは、カラーの専用端末(kobo arc)が未だ国内で販売されていないことが挙げられる。昨年9月には海外で発表された端末が、未だ投入されていないというのは、日本のみならずkoboのグローバル展開を考える上でも不安要素に数えざるを得ない。日本の電子書籍市場を押さえる上で欠かせないコミックについては、BookLive!等でフルカラー版が人気を博している。ファミリー層攻略には欠かせない絵本や雑誌もイーインク端末で読むのは現実的ではない。先般買収したフランスの電子ブックオーサリング企業・アクアファダスの技術が活きるのもカラー端末だ。

 会場には、近日公開されるというiOS版koboアプリと共に日本語で動作しているとみられるarcが展示されていたが、koboではすでに次世代カラー端末の開発も進んでいるという。「koboが牽引し2020年に1兆円超と楽天は予測する国内電子書籍市場で50%を超えるシェアを目指す」ためには、カラー端末の一刻も早い投入が必要最低条件となる。

出版界との向き合い方が鍵

 発表では、来場した出版関係者に対して、冒頭に紹介した楽天ブックスの強化に加え、電子書籍市場への移行が繰り返し説かれた。この夏までに楽天ブックスでのベストセラー上位100タイトルのうち80%のkobo対応を図り、紙の書籍と電子書籍の同時刊行にも協力を求めていくという。全体としても半分を電子書籍化するために、約2万タイトルの「優良」タイトルを楽天の負担において電子化することも示された。

 しかし、出版社の本当のところの関心は電子書籍への積極対応や市場拡大そのものではなく、変化する市場において自らの収益が確保できるのかの1点に尽きるのではないだろうか。それに対する明確な回答は残念ながら発表会では読み取ることはできなかった。

 

 

 発表会の締めとなった共同宣言では、趣旨に賛同する出版社を代表し、講談社の野間社長が「正直なところアマゾンの力は強い。引き続き楽天koboには頑張って欲しい」とあえてライバルの名前に言及したのが印象的だった。

 以前、連載の中でアマゾンのKindle担当者らに話を聞いた際は、「紙、電子どちらで本が売れても構わない。我々はユーザーが求めるパッケージを提供していく」という旨のやりとりがあったが、上記のような楽天の電子書籍へのこだわりは聞き比べるとやや奇異な印象も受ける。

 海外でkoboが一定の支持を拡げているのは、アマゾンがKindleで展開する垂直統合モデルに対し、koboが読者・出版社双方にオープンなプラットフォームであることを繰り返しアピールしていることが要因の一つであることも見逃せない。

 別の取材でkoboのマイケル・サビニスCEOに「koboの目指すオープンな未来とは何か?」という質問をぶつけたことがある。サビニス氏は「1つの会社、サービスにロックインされないこと、つまりオープンなプラットフォーム」を目指すと明言した。つまり、現状はDRMで保護されているkoboの電子書籍を将来的には(音楽と同じように)他のサービス・端末で読める未来像が描かれている。もちろん、出版社にとってリスクも伴う方向性であり、プラットフォームへの参加者としての彼らとの継続的な対話が重要となる。

 そこで、今回も発表会後、三木谷氏に「氏が考えるオープンとは何か?」という質問を投げかけたが、それに対する答えは、「EPUBを採用すること、リーダーがDRMフリーの書籍コンテンツであれば読み込めること」だった。言うまでもなく、これはKindleやiBooksも実現している「機能」であり、サビニス氏がいう「オープンな世界観」とは位相が全く異なる話だ。

 繰り返し指摘されていることだが、電子書籍とは単にデジタル化された本を販売するというものではなく、紙から電子への読書行動やそれに伴う産業構造の変化を伴って進行しているものだ。プラットフォームがオープンであるか否かもそこに大いに関わる。

 楽天がこれまで強みとしてきた「店舗と利用者の対話を演出する」というバザール型のビジネスモデルを電子書籍においても推進するのであれば、参加店舗たる出版社が何を望み、市場においてそれをどう実現したいのか、また消費者が求める利便性とどこに齟齬が有り、どう調整していくのか――そういった課題を丁寧に拾い上げていく必要があるのではないだろうか? 電子書籍のタイトル数やプラットフォームの規模といった数値目標だけでなく、むしろ、紙と電子のハイブリットとなるプラットフォームへの参加者に対して、対話を通じて見えてきた課題解決への着実・誠実なマイルストーンを示していくことこそが、koboの未来につながっていくはずだ。

文=まつもとあつし(ITジャーナリスト)