話している途中でいなくなる? 編集者が語る水木しげるの裏話

マンガ・アニメ

2013/5/9

 日本のマンガ創成期から現在にいたるまで常に活躍し続ける類いまれなマンガ家・水木しげる。『ダ・ヴィンチ』6月号では、今年91歳を迎えて全集の刊行を開始する水木しげるを大特集。その黄金時代を陰で支えた3人の関係者、呉智英、南伸坊、松田哲夫が当時を振り返り、語っている。

【南】ちょうどそのころ(出会ったころ)ですよ、水木さんの机の前に「面談5分」っていう張り紙があったのは。15分、20分なんて、いろいろとあった。ちょうどソファーに座った客から見える位置に貼ってあって。

【呉】 最初は30分。だんだん短くなるんだ、行くたびに。

【南】 いや、短くなったり長くなったりするんだよ。いったん5分になってさ、うわって思っていたら次は長くなって(笑)。会うと水木さん、いろいろ話してくれてすごく面白いんだけど、こう、見えるじゃない、「面談5分」とか書いてあるのがさ。いいのかな……なんて思いながら。

【呉】 水木さんと話すのは楽しいんだよね。あるとき訪ねたら、面談5分と書いてあるからぎょっとした。で、「すいません、いつも長話しちゃって、帰ります」と言ったら、「あんたはええんです」(笑)。

【南】 本当に帰ってほしい人間はぜんぜん読まんです(笑)。

【松田】 そうかと思うと、話の途中なのに立ち上がったかと思うと、自分の机でマンガを描いていたりするんだよね(笑)。

【南】 『アックス』という雑誌の新人賞で、水木さんにマンガの審査員をお願いしたんですよ。で、いつもは編集室に集まって審査するんだけど、水木さんがいるから調布に行かなくちゃということで、審査員の林静一さんと一緒に行ったわけ。そうしたら、「目が痛くなるから水木サンはマンガは見ないです」って言うんだよ、審査員なのに(笑)。しょうがない、今日は水木さんのお話を聞きましょうってことになった。で、その話を聞いている途中に、スッと立ってなかなか帰ってこない。トイレかなって思って、水木プロの方に水木さんは? って聞いたら、散歩だと思いますって。水木さん、つまんなかったんだろうね(笑)。

【呉】 雑誌のインタビューのときにもいなくなることがあったな。天然の部分とわざとやっている部分の両方あるんだよな。

――ここ10年ばかりの間で、水木先生はさまざまな賞を授与されていますが、そうした授賞式での先生も面白いという話を伺いました。いったい、どのような感じなのでしょう。

【呉】 賞をとって舞台で挨拶をするんだけど、水木さんの場合はみんな面白いの。例えば手塚治虫文化賞をとったときもすごかった。普通はまず賞の名前を冠した人をね、「手塚さんは天国で私を見守ってくれている」とかさ、お世辞でも何か言うものじゃない。いくら自分のライバルとかいってもね。だけど水木さん、言わないんだよね。「マンガ家はみんな、今月は寝ないで500枚描いたなんて、徹夜自慢をする。だから手塚は死んでしまうんですよ」なんてことを言って(笑)。別に悪口言うわけじゃないんだけど。

【南】 「人間は眠りが大切です。みなさんよく眠りましょう」とも言っていました。もうこれは持論だからね。いつもかならず言う。

【呉】 受賞の挨拶なのに、それで終わってしまうっていう。会場は爆笑(笑)。

 特集ではこの他、作品の魅力をはじめ、編集者だからこそ知っている水木しげるエピソードや制作裏話を語っている。

取材・文=村上健司
(『ダ・ヴィンチ』6月号「水木しげる特集」より)