福満しげゆき氏、新作はダウナー・ゾンビのお仕事マンガ!?

マンガ

公開日:2013/6/15

 世界的なゾンビ・ブームが到来している。アメリカでは、ゾンビ襲来後のサバイバルを描いたテレビドラマ『ウォーキング・デッド』がシリーズ化するほどの大人気。今夏には、ブラッド・ピット主演のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』の公開が決定している。そして日本でもまた、ゾンビ・コミックが拡大中だ。『ダ・ヴィンチ』7月号では、異色のゾンビ・コミックを上梓したばかりの福満しげゆき氏へのインタビューを行っている。

――ゾンビをモンスター扱いし、情け容赦なく銃で倒す場面があるけれど、ゾンビとは元は普通の人。現実的に考えると、そんな乱暴に扱っていいものだろうか……と疑問が生じる。福満しげゆきの新作『就職難!! ゾンビ取りガール』は、ゾンビを殺さずに回収するという異色のゾンビ・コミックだ。

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 そこで描かれるゾンビは徘徊老人のようで、あとがきによれば「工業高校で丸一日過ごして、女の生徒を見かける頻度」の出現率。人々がパニックになるわけでもない。

「近年ゾンビがすごく強くなってきているので、それをストップできないかと。一度そうなってしまうと、立てこもって防戦するようなゾンビものしか描きようがないですからね。まずこのマンガのゾンビは人を食べない。噛みつきますが食欲ではないんです。ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビよりも弱くしたらどうなるのかな、というシミュレーションでもありますね。徘徊老人みたいなゾンビが歩いている程度だったら、日本だとさわらないようにしようとなる。日常とゾンビがいる世界をぎりぎり並行して描いてます」(福満しげゆき)

 ゾンビから凶暴さを抜くとダウナーな存在になる。福満版ゾンビは身元不明だったりする憐れなゾンビなのだ。とはいえ街に腐乱死体を放置するわけにもいかず、誰かが処理しなければいけない。それが東京都に依頼されたゾンビ回収業者だ。それにしてもゾンビを仕事マンガとして描くなんて、どこから思いついたのだろう?

「何年も前に思いついて、『日本のアルバイト』という短編で描いたのが元になってます。当時100円ショップで働いていた頃は、デフレと言われはじめた時代で、東村山にホームレスが溢れて街のすさみ方がハンパじゃなかった。雨の中でおにぎりをぎゅうっと握り潰している年寄りとか、川の中に入って石を拾ったり投げたりを繰り返してる人がいたりして、とにかく異様な光景だったんです。それがゾンビだったら……という着眼点から始まりましたね。最初はギョッとするんですよ。でも、だんだんみんな慣れてきて空気みたいな扱いになる。それが、街にゾンビがいても、みんなスルーしていく感覚につながってますね」(福満しげゆき)

 ゾンビファンとしての福満さんのこだわりは、人を怖がらせるだけのお化け屋敷としてゾンビを描かないこと。福満さんにとってのゾンビとは、いつ自分もそうなるかわからない不安の象徴なのだ。

「一度社会から脱落したら誰にも相手にされず空気扱いという風潮がありますよね。そういう人を底辺と言ったり、自業自得と言ったりする人がいますけど、それでいいのかな?と思うんです。そういう人でも何かおさまりどころを見つけて生きていける社会じゃないと、いずれみんなゾンビに襲われるぞ……という思いもあって職場という設定にしてるんです」(福満しげゆき)

構成・文=大寺 明