マンガ家がリアルに切り込んだ、出版業界の裏側とは!?

業界・企業

更新日:2013/7/16

 売れるマンガ、そうでないマンガ。その差はいったいなんだろう? こんなにおもしろいのに、どうして爆発的な人気にならないんだろう? そう思ったことはないだろうか。その疑問に応えるべく、出版業界の裏側に迫ったコミック『重版出来(しゅったい)!』がいま、注目を浴びている。

 プロの目利きである書店員の圧倒的な支持を集め、さらに巷の働く人や就職を控えた学生、多様な層へと急速にファンを広げている大注目の出版業界お仕事マンガだ。『ダ・ヴィンチ』8月号では、著者・松田奈緒子のインタビューとともにその人気の秘密に迫っている。

advertisement

――「モンスター級に売れるマンガとそうでないもの。その違いはどこにあるんだろうとずっと思っていて……」

松田さんは、デビュー以来『レタスバーガープリーズ.OK,OK!』をはじめ書評家や書店員といったプロの目利きに評価される作品を発表してきた。しかし一方で、大ヒット作、いわゆる“化ける”作品に恵まれない悩みを抱えていたという。「自分はなぜ売れないのか?」――この真摯な問いが、『重版出来(しゅったい)!』の見事な成功の陰にはある。

 連載の準備は、まず丹念な取材から始まった。出版社の営業、書店員、製版所のオペレーター……マンガの裏方たちとの出会いが、松田さんの意識を変えた。

「取材で初めて、“チーム”を実感したんです。私が知っていた世界は、自分とアシスタントと編集者くらい。でもマンガは、数えきれない人たちのリレーで読者の方に届いているんですよね。書店員さんには、“松田さんの絵柄は青年誌向き”とか細かいアドバイスまでいただいたりもして。皆さん、本当に真剣に仕事に向き合っていた」
“チームワークがよければマンガは売れる。誰か一人でも欠ければ成功はない”。――取材時に小学館の営業が語った言葉が、松田さんの心に刺さった。

 さて、『重版出来(しゅったい)!』の主人公は、柔道女子の黒沢心。天真爛漫な彼女の存在が物語を引っ張る。柔道という発想はどこから?

「雑誌が発売に間に合うかどうかの大ピンチ。女子編集者が原稿を大切に抱えて、ごろごろって製版所に転がり込む。そのシーンが、最初にポンって頭に浮かんで。彼女の動きを生かすには、体育会系の設定がいいだろうと。たまたま担当編集さんが通っていたマッサージ師さんが元柔道選手で、お話をうかがったらすごく面白くて」
この“ごろごろシーン”は、9月末発売予定の2巻に登場する。同巻には、初めてマンガ家の担当についた心の奮闘など出色のエピソードが満載なので、ぜひお手に取っていただきたい。

 リアルな出版の舞台裏を描きながらも、決して内輪受けの業界モノには陥らない。出版に興味がある人もない人も、働いている人もいない人も、老若男女、誰もが心打たれる本質的なドラマがそこにはある。

「これまでの作品でも心がけてきたことですが、一人一人の生きている人間を表現したいと思っています。仕事をするとは? 人と社会の関わりとは? 『重版出来!』には、そういう広いテーマがあります。いろいろなキャラに感情移入して、さまざまな角度で楽しめると思いますので、繰り返し読んでいただけたら嬉しいですね」

取材・構成・文=松井美緒
(『ダ・ヴィンチ』8月号「コミック ダ・ヴィンチ」より)