人が“土下座”をする理由とは? 黒、白、ニセの3つに分類

人間関係

公開日:2013/10/13

 しまむらの店員に土下座を強要したとして40代の女性が逮捕され、大きな話題となっている。大ヒットドラマ『半沢直樹』での土下座シーンに影響されたではともいわれている。たしかに、『半沢』以外にも、クドカン脚本の映画『謝罪の王様』でも、阿部サダヲ演じる謝罪のプロ・黒島譲が土下座の見本を披露している。

 その土下座に、以前から並々ならぬこだわりをもつ男がいるのをご存知だろうか。土下座をテーマにした『どげせん』(RIN:著、板垣恵介:監修/日本文芸社)の設定を作ったり、『謝男』(日本文芸社)を描いた板垣恵介だ。そして、彼は9月26日に『裏最強土下座』(幻冬舎)という本まで出版した。ここで、板垣は土下座を謝罪の行為「黒土下座」、感謝の座礼「白土下座」、見せ掛けだけの「ニセ土下座」といったジャンルに分けて考察しているのだが、彼の考える土下座とはどんなものなのだろうか?

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 まず、黒土下座には人から強制される土下座や自分の意見を押し通すためにされるものなどが当てはまるよう。そして、彼が『どげせん』を思いつくきっかけになったのも、この黒土下座。十数年前、当時の担当編集者にライバル誌での連載を受けないでくれと駅前で土下座されたそうだが、板垣にしてみればその「圧倒的な攻撃性」と「有無を言わせさぬ強引性」がまるで暴力のように思えたという。特に、人前で突然土下座されたら、その威力は倍増する。なぜなら、人前で土下座している姿を目にすると「土下座をする人=かわいそう=善人」。逆に、土下座させている人には悪人のイメージが湧くから。ただ相手が勝手に土下座しているだけなのに、なんだか自分が悪者になってしまったみたいで「勘弁してくれ」という気持ちにさせる。黒土下座とは、自分を貶める情けない行為に見えて、実は相手にダメージを与え、強引に言うことを聞かせるとんでもないものだったのだ。

 一方、白土下座とは「ありがとうございます!」という感謝の気持ちを表すために相手の足元にひれ伏すものや、「あなたを信じている」という信頼感を表すもの。いずれにせよ、する側にもされる側にも不快感を抱かせないものが分類される。たとえば、あまりにもお世話になりすぎて、ただのお礼では足りないし、食事やプレゼントといったものやお金でも返せない。そんなとき、そのモヤモヤを解消するために「この人に土下座したい!」「足元にひれ伏したら、どんなに気持ちいいだろう」と思うかもしれない。また、もし子どもが車にはねられそうになっているところを助けてくれた人がいたら、きっと自然と土下座してしまう。人は、「処理できない感謝の情に襲われたとき」に土下座してしまうのだ。

 そして、どちらでもないニセ土下座は、逃げ出すためだけにするもの。あるいは、本来ならばする必要のないものを言うそう。謝罪会見で怒号に耐えかねて土下座するもの。土下座しても許されないことに対しての土下座。政治家が選挙活動中に行うもの。これらは、“自分のためだけ”に行われることがほとんどだ。それゆえ、金銭にまつわる土下座にもニセ土下座が多いという。ただし、その土下座を本物にするか偽物にするかは、土下座した後の行動次第。謝罪会見でとっさにやった土下座だろうと、金を借りるためにやった土下座だろうと、その後も本当に反省し続けて行動に移したり、実際に借りた金をきちんと返済し終えたなら、それは本物になる。土下座したときの気持ちを持ち続けることが、その土下座を偽物にしない唯一の方法らしい。

 深い、深すぎる。さすがは、かつて「土下座観の違い」により『どげせん』コンビを解消したこともある板垣だ。これほどまで奥深い“土下座”。とくに黒土下座やニセ土下座は、現実世界で気軽にやると痛い目に遭うかもしれない。気をつけたいものである。

文=小里樹
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)