音楽批評はしない!? ナタリーが読者に愛される理由とは?

音楽

2014/9/10

 記事の更新のあまりの早さと内容の濃さに読者から「キモい」と言われるニュースサイトがあるらしい。その名は「ナタリー」。音楽ニュースサイトとして誕生し、そこから漫画、お笑いにそのフィードを広げてきた日本最大級のカルチャーニュースサイトだ。ニュースを出すのが遅れると、読者から「遅いよ!」と怒られ、良い記事を出せば、「ありがとう」との声が届くというナタリーは、書き手と読み手との距離がとても近い。なぜこんなにもナタリーは多くの人を魅了しているのだろうか。

 ナタリーの創設者・大山卓也氏著『ナタリーってこうなってたのか』(双葉社)には、ナタリーの軌跡が記されている。毎月2000本以上のニュース記事を配信し、月間3000万PVを獲得しているニュースサイトはどのような信念の元、運営されているのか。

 ナタリーは、2005年に誕生。既にその頃にはBARKSやCDジャーナルなど多くのニュースサイトはあったが、大山氏にいわせれば、それらはみな物足りなさを感じさせるものだったという。物心ついた時から音楽好きで、多い時に年400枚近いCDを買い、年200本以上のライブに行くような生活が当たり前だった彼は他のニュースサイトでは、満足できなかった。音楽ファンが求める平坦で、偏りのないフラットなメディアがほしい。そんな思いから、ナタリーは創設された。

 ナタリーの記事は、「批評はしない」というのが一貫したスタンスだ。昔の音楽雑誌ではライターが自身の経験を交えて音楽をアツく語るさまが見られたが、ナタリーではライターの自己表現はない。必要なのは、情報だけ。感想や見解はニュースを読んだ読者が、SNSやリアルの場で披露してくれれば良い。大山氏は、多くの人にとって必要のない情報も含め、ありとあらゆる情報が洪水のように流れ込んでくる場を作りたいと考えている。その思いが形になったナタリーのニュースを見ていると、自然と知らないアーティストの情報も自然と入ってくることが分かるだろう。思いがけず、新しいアーティストを知り、ファンになってしまうことがあるのも頷ける。

 情報の洪水を生み出すため、1日100本あまりの記事を配信し、読者にあらゆる情報を提供しようとしているナタリーだが、何でもかんでもニュースにしようとしているわけではない。常にファンが喜ぶニュースを届けようと心がけているのだ。たとえば、「恋愛禁止」の原則を破ってしまった某アイドルが頭を坊主にして謝罪した時、ナタリーはその画像もYouTubeへのリンクも貼らなかった。スポーツ新聞や週刊誌、テレビはその画像を公開処刑のように多用していたが、インパクトばかりを重視してのアクセス数稼ぎを行なおうとはしなかった。ナタリーでは、坊主にした件については一切触れず、ただ「グループ内で研究生に降格処分となった」という事実だけを伝え、記事中の写真も一番かわいいと思うものを選んだ。そこには、「人を幸せにするもの」を作るアーティスト、そして、そのファンである読者への敬意が示されているといえるだろう。

 また、ニュース記事と並ぶナタリーの大きな柱にはインタビューがあるが、ここにもナタリーならではのファン目線のインタビューが盛り込まれている。インタビューというと、新曲を褒めちぎったありきたりな内容がほとんどだ。だが、ナタリーではファンが本当に気になっていることに果敢に突っ込んでいく。たとえば、2008年、いきものかがりに対して行なわれた「インタビュー」では、大山氏はこんな質問を投げかけたのだという。
「いきものがかりは老若男女問わず広く支持されている反面、コアな音楽ファンと言われる存在からはほぼ無視されていることをどうお考えですか?」

 聞きにくいことを聞くギリギリのライン。おまけに「いきものがかりはどこか田舎っぽいというか、ダサいところがありますよね」などという少し失礼にも思える相槌を打ちながらも、それが許されてしまうのは、ファンの視点に立った反応だからだろう。結果、いきものがかりの芯の強さや王道に向かう強い意志、普段わざわざ語らない音楽シーンへの思いが伺い知れるファンにはたまらないインタビューとなり、多くの反響を呼んだ。

 多くの情報を届けたい。ファンの求めるものを届けたい。そんな思いが、淡々としたナタリーのニュース記事に込められている。ナタリーのこれからの目標は「ナタリーをもっと大きくしていくこと」。これからもあらゆるカルチャーファンを魅了し続けていくに違いない。

文=アサトーミナミ