昭和の少年たちの知識の源・よみがえるケイブンシャ大百科

アニメ・マンガ

2014/11/11

 これは昭和の話。まだ、ウルトラマンジャックが「帰りマン」と呼ばれていた時代。ユニクロではなく『チャイクロ』のテレビCMが流れていた時代。「カリンチョ」や「ジャフィー」がお菓子屋さんに並んでいた時代。

 どこの子ども部屋にも、その本はあった。文庫サイズで分厚くて、ぼくらの知りたい情報が詰まった本があった。そう、それが「ケイブンシャの大百科』シリーズだ。

 1977年に『全怪獣怪人大百科(53年度版)』から始まった「大百科」シリーズは、勁文社が倒産する2002年までの間に、通巻697番が刊行された。年鑑形式で内容が異なる巻を含めると777冊というから驚きだ。

 勁文社の倒産とともに、消えた「大百科」シリーズだが、その歴史をまとめた1冊が今、大きなオトモダチたちを喜ばせている。
よみがえるケイブンシャの大百科』(黒沢哲哉:編/いそっぷ社)だ。

 本書では、全777冊のうち、昭和に発売された1~350番までが紹介されているが、その内容の多彩さには、改めて驚く。

 『全怪獣怪人』に始まり、プロ野球、ヤングタレント、乗り物、アニメ、宇宙、心霊、プラモ、シール、マイコン(笑)、ピンクレディー、野菊の墓、ジャッキー・チェン…時代を如実に反映しながら、次々と刊行される大百科。ジャンルの豊富さもさることながら、編集者やライター陣の独特なこだわりと遊び心ある記事こそが、最大の魅力だった。

 『プロ野球大百科』では、選手名鑑としてのデータに加え、「各選手の結婚・離婚に関しては必須事項のように記載されて」いた。

 『ヤングタレント大百科』の「芸能新語・隠語」コーナーでは、「宇宙遊泳→シンナーを吸って、セックス遊びをすること」「祭り→乱交パーティー」などといった、児童書にあるまじき言葉が飛び交う。その表紙にはその年度ごとの大人気アイドルたちの笑顔が並んでいるのだ。今なら絶対に出版できない(笑)。

 小学生時代の筆者は『仮面ライダー大百科』の「ライダー・こぼれ話」のミニコラムが大好きで、「藤岡弘が交通事故に遭って出演できず、声優の市川治が声を吹き替えた。ちなみに市川治は怪人○○男の声で…」とか、原作者の「石森章太郎先生(現・石ノ森)が監督した回に、釣り人役で逃げてる。迷演技?」とか、そういう情報ばっかり覚え、オタクになってしまった。

 『ピンク・レディー大百科』には「振付」が掲載され、アニメ関連の大百科では「設定資料」「絵コンテ」「声優さんの顔」などのテレビでは得られない情報が詰まっていた。

 勉強とは違う角度で「知識・情報」と接することで、“ぼくら”の世界はより立体的になって行った。

 本書の巻末には、執筆陣や編集者、コレクターらのインタビューも掲載され、『ケイブンシャの大百科』が生まれた背景や当時の空気を知ることができる。

 あのノンフィクション作家・佐野眞一氏が、大百科シリーズの前身といえる『原色怪獣怪人大百科』を企画・編集し、写真1枚から設定や怪獣の足型を考案したりした。

 『うる星やつら』や『パタリロ!』などの脚本で知られる金春智子氏は『全アニメ大百科』の記事を書いていた。

 『機動戦士ガンダム大百科』では、ガンダムマニアの学生たちがその記事作成に活躍したという。

 読者を楽しませるために大人が本気で知恵を絞り、生み出した「大百科」シリーズは、子どもたちの想像力をかきたて、夢や希望をふくらませた。
 時代は変わり、勁文社も『大百科』も今は書店にはないけれど、めくるページすべてにドキドキとワクワクを感じた“ぼくら”大人は、「識る喜び」と「ややインチキくさい情報の面白さ」を知っている。

 日々の生活やネットで氾濫する情報につかれたのなら、本書を手にとって、あの頃に戻ってみるのも悪くない。

 最後に『おもしろ日本一大百科』からクイズを紹介して本稿を終わりたい。

【問題】次のうち本当の人は誰でしょう?
(1)イボの研究にかける久保忠雄さん
(2)ヘソの研究にかける南雲吉和さん
(3)水虫の研究にかける夏井茂さん

 答えは本書で確かめてください…っていうか、こんなのどこの子どもが答えられるんだ!!

文=水陶マコト