東映Vシネマ誕生25周年!カオスの歴史に埋もれた傑作・怪作Vシネマを発掘! 『90年代狂い咲きVシネマ地獄』

暮らし

2014/11/13

 今年は「東映Vシネマ」誕生25周年に当たる年であり、11月1日にはそれを記念した映画『25』が公開され、また映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」では「PLAYBACK 東映Vシネマ25連発」という上映企画も開催中だ。

「いや、そもそも“Vシネマ”って何よ?」と思った方に一応ご説明を。「Vシネマ」とはレンタルビデオ店での貸出用に作られた映画のこと。日本映画が低迷するバブル末期、急成長するビデオレンタル業界に注目した映画会社は、劇場公開映画よりも安い予算で量産できるオリジナルビデオの制作に参入し始める。その嚆矢となったのが、89年3月に発売された東映の『クライムハンター 怒りの銃弾』(監督&脚本:大川俊道、主演:世良公則)だ。以降、アウトロー、エロ、ギャンブルといったジャンルを中心に大量のオリジナル作品が制作されることになる。ちなみに「Vシネマ」という呼称は東映の商標登録だが、90年代に作られたオリジナルビデオ映画の総称として現在では定着している。

 アウトロー系作品から哀川翔、竹内力というお茶の間でも活躍するスターを生み出し、またホラー分野では「呪怨」の清水崇監督といった「Jホラー」ブームの原動力となる人材を輩出するなど、日本の映像業界の発展に大きく寄与した…というのがVシネマに対する一般的な評価だろうか。

 だがちょっと待った。00年には年間製作本数が300本を越えるほどの濫造ぶりをみせたVシネマ、なかには「映像業界の発展に寄与した」なんて言葉では片づけられないような怪作が生まれ、歴史の闇に埋もれてしまったものも少なくない。そうした映像史からはみ出た徒花の如き作品をサルベージし、いま一度光を当てたガイドブックが『90年代狂い咲きVシネマ地獄』(別冊映画秘宝編集部+高鳥都・編/洋泉社)だ。

 紹介されているのは「Vシネマ」市場が確立される前の80年代半ばから現在に至るまでに製作された120本の作品。まず驚かされるのはVシネマ=ヤクザ、エロ、ギャンブルという固定概念をぶち壊す、ジャンルの雑多ぶりだ。「推理編」「解決編」の2本のビデオに分かれた『マニラ⇄ 東京 復讐の捜査線 殺意の熱い砂』(監督:原田雄一、主演:名高達郎、製作:東和、1990年)のような本格謎解きミステリがあるかと思えば、ゾンビとなったヤクザが復讐を始めるヤクザ×ゾンビもの『実録外伝 ゾンビ極道』(監督:佐々木浩之、主演:小沢仁志、製作:スーパービジョン)や、銀行と暴力団が土地の権利争いを決するためにサッカーの試合を開くヤクザ×スポ根もの『仁義なきイレブン』(監督:福岡芳徳、主演:高杢禎彦、製作:大映映像・ケイエスエス、1991年)など、どう考えても無茶なクロスオーバー作品もありと、実にカオス。ホラー、アクションなど一応8つのジャンルに分類しているものの、後記で編集側が自ら「その実は混沌としている」と言う通り、ひとつのカテゴリで括るには難しいボーダーレスの荒野が広がっているのが90年代Vシネマなのだ。

「えっ、あの俳優さん、こんなものに出演していたのか!」と有名俳優の隠れた名仕事が見つかるのも楽しい。92年製作の『ゴースト刑事』(監督:水川淳三、製作:イマジン・J)では今年3月に逝去した蟹江敬三がタイトルのまんま、幽霊となっても犯人を追いつめる刑事を熱演した。70年代からの悪役のイメージを脱し、ドラマの刑事役を多数こなしていた頃の蟹江が鬼気迫る演技をみせ、蟹江自らも代表作に選んでいるほどの力作になっている。94年の『拳鬼』(監督:廣西眞人、製作:大映)で拳法の達人である整体師を演じるのはブレイク前の阿部寛だ。『テルマエ・ロマエ』に出る遥か前、阿部はすでに本作で引き締まった肉体美を披露し、華麗な格闘アクションを見せてくれる。(ビデオジャケットで拳を突きだす裸の阿部ちゃん、完全にケンシロウにしか見えない)。Vシネマ黎明期、新たな映像表現の実験場としてVシネマに着目し、挑戦した俳優も少なくない。本書ではその中でもさらに尖った形で個性を発揮した俳優たちの主演作を数多く紹介しているのだ。

 こう書くと「ただ珍しいVシネマのタイトルを集めただけで満足したガイドじゃないの?」と疑われる方もいるかもしれない。それは否、断じて否である。例えば『戦慄のムー体験』(主演:吉原貴和子ほか、製作:パル企画、1994年)のレビュー。ここでは監督・鶴田法男が90年代初頭――つまりゾンビブームが到来する以前の段階でジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ表現へのオマージュを行っていたことを指摘し、従来の「Jホラー」研究がすくい取れていない歴史を炙り出す。主演の世良公則によるガンさばきに注目する『クライムハンター3 皆殺しの銃弾』(監督:大川俊道、製作:東映ビデオほか、1990年)のレビューは、爆破と大規模ロケか、あるいは『特捜刑事マイアミ・バイス』のパロディに終始してしまいがちな日本の刑事アクションのなかにも世良という本格的なガンアクションスターがいたことを気付かせてくれる。Vシネマにとどまらない、日本の映像ジャンルのミッシングリンクを発見する役割も本書は担っているのだ。

 ひとつの史観や統一理論では語り通すことができない混沌とした世界、それがVシネマである。『90年代狂い咲きVシネマ地獄』はその混沌に身を置き、ひとつひとつの作品に真正面から向き合い、戯れる姿勢を徹底して貫いている。これは知らない世界に飛び込むことを面白がれる人にとって、最高の娯楽を提供してくれる書なのだ。

文=若林踏