1億人に「いいね」と感じてもらうユニクロの服作りとは? 大量生産の服って誰がどうやってデザインしてるの?

ビジネス

更新日:2014/12/18

 ユニクロでいつも思う。「なんであんな売れなさそうな色の服を置くんだろう」と。実際、ワゴンには奇抜な色のセール品が並んでいる。素人でもわかるのに、と思う。だが、その服にもデザイナーは存在するし、会社はGOサインを出しているのだ。なぜ? どんな人がどういう意図でデザインしているのだろうか? ひとつの答えが『1億人の服のデザイン』(滝沢直巳/日本経済新聞出版社)にある。

 本書の著者・滝沢直巳氏は、三宅一生氏のアシスタント、ISSEI MIYAKEのデザイナーを経て独立。自らのブランドでも高い実績を残し、2011~2014年までユニクロのデザインディレクターを担っていたという経歴の持ち主だ。

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 滝沢氏曰く、今や世界中で販売されているユニクロ製品は「1億人のための服」だ。マーケティングが重視される世の中にあって、ユニクロは「メードフォーオール(すべての人のために)」の思想でデザインされる。

 ファッションへの関心も情報も好みも千差万別の1億人相手に問われるのは「いいね、と着てもらえるかどうか」だ。

 まず、デザイナーに求められるのは「自分の主張を極力薄めて、多くの人に受け入れられやすいデザイン」をすることだ。

 しかし、売上効率や合理的な裁断だけを考えて白紙のような服を作っても、人の心は動かない。デザインの大前提にあるのは「袖を通した時の感動」だ。1億人に「いいね」と感じてもらうためには、着心地、生地の肌触り、シルエットなど、あらゆる要素に計算を尽くしたデザインが必要となる。「いいね」を求め、考え抜かれて作られたデザインは、描いて終わりではない。

 パタンナー(型紙作りの専門家)から、より美しい形の提案を受ける。生産部隊からは、より効率の良い縫い方を提案される。

 服のサンプルができると、営業部から「コストに見合わない、想定価格が達成できない」とチェックが入る。

 ボタンやポケットなどの付属品や装飾を調整し、コストダウンを図る。値段に合わないから戻す、営業部の指摘も「デザインの一部」なのだ。

 いよいよその服を店頭に持参し、ショップスタッフに見てもらう。販売経験に基いて、売れる売れない、デザインの変更などの要望が出る。そこからさらに改良を加える。こうした過程を繰り返し、ユニクロの服は、ようやく製品の形になる。

 だからこそ余計に気になる。「なぜその色を作るのか」と。理由のひとつは、店内に並べた時の華やかさ。黒が流行しているから黒ばかり並べては店が暗くなる。ピンクの服があることで、明るくなる。

 もうひとつは「潜在顧客数」だ。どんな服にも受け入れてくれる客があり、売り切れなかった商品が必ずしも悪いわけではない。潜在顧客数と生産量のバランスを見極められなかったことが原因の場合もあると滝沢氏は言う。

 また、世界で販売するに当たって、人種=肌の色との「相性」や「国民性」によって、日本とは違う色が売れることもあるのだという。

 これらの話から見えてくるのが、ユニクロの服の根底にある思想──「As you like(お気に召すまま)」だ。

 自分たちが作った服を「I offer you」と、答えとして提案するのではなく、着る人それぞれの着方、ライフスタイルに合わせて、自分なりの答えを見つけてもらう、それが「1億人の服のデザイン」の方法論。

 だから、これからもユニクロの棚には、ドピンクな服も、奇抜な組み合わせのボーダーパジャマも並び続ける。それをどう感じ、買うも買わないも、お気に召すまま、なのだ。

文=水陶マコト