子犬を冷蔵庫に入れ翌朝には…、「犬を殺すのは誰か」【ペット流通の闇】
公開日:2014/12/22
環境省発表の統計によれば、2012年に殺処分された犬・猫は16万1847匹(うち幼齢個体は8万2332匹)に及ぶという。毎年その数は減少し続けており、たびたび行われる動物愛護法改正や各自治体の取り組みが功を奏したようにもみえるが、その裏では、いまだ犬や猫が犠牲となる事件も絶えない。
直近でいえば、今年11月、栃木県でわずか1週間の間に約70匹の犬が河川敷などで死体となって見つかる事件があったのは記憶に新しい。逮捕されたのは、ペットショップ従業員。ブリーダーから引き取った犬の処理に困り、思い悩んだ末に遺棄することを決断したという。
ペットとして愛される犬や猫のまわりで、いったい何が起きているのか。ペットショップ、ブリーダーなどの実態を生々しく描いた書籍『犬を殺すのは誰か』(太田匡彦/朝日新聞出版)では、ペットを取り巻く一つの現実が克明に描かれている。
専門学校時代、夢を描いたペットビジネスに失望した男性がいた。男性は常時20匹~30匹の犬や、ペットフードなどを販売する大手チェーン店の研修に出向いた。研修開始から3日ほど、開店前の店舗内で店長が生後約6カ月のビーグル犬を、生きたままポリ袋に入れるのを見かけたという。
「このコはもう売れないから、そこの冷蔵庫に入れといて。死んだら、明日のゴミと一緒に出すから」と店長から告げられ、男性は難色を示した。しかし、店長は続けた。「ペットショップというのは、絶えず新しい子がいるから活気があって、お客さんが来てくれる。これができないなら、ペットショップなんてできない。仕事だと思って、やるんだ」。
男性はその後、専門学校へ研修の中止を懇願した。需要と供給が生まれれば、ビジネスは成立する。しかし、生体販売には「命そのもの」を商品とする以上、様々な議論が生まれるのも事実だ。そして、犬の繁殖を生業としていた元ブリーダーの証言も続く。
2007年12月までペットショップを経営していたという男性。熱帯魚販売から転換を図り、販売のかたわら「利幅」を厚くするためにみずからブリーディングも手がけるようになったという。元から犬好きだったという男性は当初、母体の健康を気づかい繁殖を年1回としていた。しかし、記憶に新しい小型犬ブームがやってくるとともに、競合他社の増加に伴う価格下落に応じて、発情期ごとに繁殖させるようになった。
「私のもとにいる犬は不幸だった。いまはやめてよかった」と語る男性は、当時の記憶をこう振り返る。「いつのまにか感覚が麻痺してしまうんです。たくさんいた方がもうけは大きくなるのですが、その分だけ目が行き届かなくなり、管理はずさんになる。すると犬が商品にしか見えなくなり、お客さんの求めに応じて生後40日の子犬だって売ってしまう」。
男性のように「犬や猫が大好きだ」という純粋な気持ちから、ペット業界を志す人たちは少なくないだろう。しかし、まわりはじめたビジネスには売上げや利益、さらには個々人の生活がかかってくるのも事実で、当初の思いが薄れてしまうのをむげに非難するのも難しい。
公益財団法人 地方経済総合研究所によれば、2011年のペット業界全体の市場規模は1兆4033億円。そのうち生体販売は35.7%の5011億円とされ、いまだ多くの需要があるのがうかがえる。しかし、犬や猫が「商品」として扱われる実態には流通の闇も存在している。同書によれば、流通には3つのルートが存在するという。
1.ブリーダー→競り市(ペットオークション)→ペットショップ→飼い主
2.ブリーダー→ペットショップ→飼い主
3.ブリーダー→インターネット→飼い主
このうち主流となっているのは1番のペットオークションで、ブリーダーの出荷先も5割以上がオークションを通じたものだとされる。生体販売には本来、動物取扱業の資格が必要となるが、ある大手ペットショップチェーンの経営者はこう話す。「動物取扱業の登録さえしていれば、特別な審査も無く誰でもオークションに入会できるのです。またブリーダーとペットショップが直接交渉できない仕組みになっていて、出品生体の親の情報やその管理状況などの情報はわからないようになっています」。
この仕組みのもとで、流通過程の中で「行方不明」になる犬が約1万4000匹もいるという。オークションを手がける会社はおおむね毎週1回、決まった日に300~500匹の子犬や子猫を競り、多いところでは約1000匹にもなるそうだ。しかし、オークションに出されたすべての犬や猫が流通されるわけではなく、いわゆる「欠陥商品」とされれば買い手が付かない。そのため、栃木県で起きた事件のようにむげに遺棄される犬や猫が大量に生み出される。
筆者も猫を飼っているが、飼い主の手元に行き渡り愛され、幸せなまま一生を遂げる犬や猫がいるのを考えれば、ビジネスそのものをむげに批判することはできない。ただ、「殺処分ゼロ」をうたうドイツの事例もあるように、不幸になるのを前提に生まれてきた犬や猫を救う仕組みがよりいっそう広まるのを願う。
文=カネコシュウヘイ
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