なぜBABYMETALなのか。『ヘドバン』編集長・梅沢直幸さんインタビュー

音楽

更新日:2015/2/6

辟易する程に情報が詰まった本を作る。読者の心に刺さらなければ意味がない

『ヘドバン』の誌面はどこを眺めても熱く、今すぐにでもメタルを体感しなければならないという衝動に駆られる。心身ともに読者を揺さぶり、駆り立てるほどの誌面作りにはどういった精神が流れているのだろうか。引き続き、梅沢さんへ伺った。

「ライブレポートもありがたいことに読者の方々から『熱い』と評価して頂きますが、制作当初から正直、そんなに強く意識したわけではなかったです。ただ、そもそもお金を払って本をレジに持っていくというのは、やはり凄いことだと思うんですよね。『ヘドバン』の定価は1404円(税込み価格・2014年1月 現在)ですが、考えてみればシングルCD1枚よりも高い場合もある。そのぶん中身がギッシリと詰まっているものが、自分が見る限り本屋の書棚に見当たらなかったんです。だから漠然とですが、『既存の音楽雑誌とはまるっきり違う方向へ振ってしまえば、求めている人たちはいるのではないか』という考えはありました」

 出版不況といわれるこのご時世に、出した号すべてが重版するというのは異例ともいえる事態である。年間数千点にも及ぶ雑誌が書棚やAmazonなどの倉庫に並んでは、時に、読者の手に届かずそのまま消えていく運命にある。しかし、読者と同じ目線に立ち、商品としての「雑誌」と向き合ったからこそ支持されたのだろう。ただ、現在のような反響は当初予想していなかったという。

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「自分の中にあった『面白いことはまずやってしまおう』という気持ちが、今に繋がっているのかもしれません。じつは、出版社勤務だった90年代に『悶絶! プロレス秘宝館』(当時のシンコー・ミュージックより発刊)というムック本を手がけたことがあるんです。同世代だったプロインタビュアーの吉田豪氏やライターの植地毅氏などに協力してもらい、プロレス関連のテレビや映画、漫画などを集めたものでしたが、衝動のまま作りはじめたらゴチャゴチャと情報の詰まったものができあがり、インタビューなどでレスラーがいっさい登場しないのにファンの方から好評価を頂きました。現在の『ヘドバン』にも似た流れを感じます」

 読者の心に「刺さらないと意味がない」と語る梅沢さん。衝動のままに突き進むというのは誰もができることではないが、ひとたび面白いと感じたものへ一心に向かう姿勢もまた、読者を突き動かす原動力になっているのかもしれない。そして、作り手として意識している部分についても尋ねた。

「テーマ自体がマニアックな本というのは、いくらでも作れると思うんです。ただ、やはり商業誌である以上、売れなければ、多くの人に購入してもらわなくては意味がないですからね。購入して頂くからにはページを開いた瞬間に「うわぁ……」と辟易するくらいに、情報がビッチリと詰まっていて、買ってお得感がなければ意味がないと思うんですよ。誌面作りではおそらく、もっとも心がけている部分ですね。また、『ヘドバン』でいえば特集やコーナーのタイトルやキャッチすべては、自分が作るようにしています。誌面からの熱量を感じられるという部分もしかり、だからこそ全体に統一感をもたらせるのだと思います」

 誌面制作に参加するライターやデザイナーも、メタルへの見識や熱量を見きわめた上で「お願いしている」と語る梅沢さん。制作は漫画『ゴルゴ13』のような完全分業制だというが、それぞれの意識が統一されているからこそ、読者を熱く揺さぶる誌面が完成されているのだろう。

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