行けないからこそ楽しめる? 絶対に行けない“非公開区域”の内部を想像する楽しみ

社会

公開日:2015/2/8

 ライターという仕事をしていると、取材という名目で普通ならなかなか行けないような場所にも足を運ぶ機会がある。とは言っても、そのほとんどが“非公開区域”というほど大層なものではない。自衛隊の駐屯地や鉄道の車両基地、JAXAの種子島宇宙センターなど、一般公開も積極的に行っているようなところばかりだ。当たり前のことだけれど、取材後は記事になって公開されてしまうのだから、“非公開区域”などそうそう足を踏み入れることはできないのである。

 ただ、いろいろな場所に足を運べば運ぶほど、さらに興味が湧いてくるもの。取材時に「ここから先はNGで…」などと言われたら、ますます行きたくなってしまうのだ。

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 『絶対に行けない世界の非公開区域99  ガザの地下トンネルから女王の寝室まで』(ダニエル・スミス/日経ナショナル ジオグラフィック社)は、そんな非公開区域に行きたい!という欲望を満足させてくれる一冊だ。

 その名の通り“非公開”なのだから、「特別に取材が許されて」などというワケではなく、航空写真や内部の様子として公開されているオフィシャル写真などがベース。そして、それぞれのスポットが“非公開”になっている経緯などを説明してくれている。

 例えば、「エリア51」。イチローが守っているライトの守備位置…ではなくて、アメリカ・ネバダ州にある米空軍の基地のことだ。この基地は、地球外生命体(宇宙人やUFO)の研究が行われているという噂がある。米空軍にとって最重要の基地のひとつであるがゆえ、内部の情報は最高機密として徹底的に守られている。そのため、真実はともかくこうした噂が流れてしまうのだろう(実際に戦後直後に未確認飛行物体を回収したという事実はある)。

 この本が取り上げているのは、エリア51のように軍事的・政治的な意味合いで非公開となっている場所だけではない。例えば、フランスとベルギーの国境地帯にあるバスクール。ここは第一次世界大戦時に大量の地雷が埋められたエリアで、危険度が高すぎるために立ち入りが禁止されている。他にも、ソマリアの海賊が支配する「海賊の町 ホビョ」やエジプトとイスラエルのガザ地区を結ぶ密輸トンネルなどが“危険すぎる”非公開区域。こんなところ、頼まれても行くのはゴメンだと思うばかりである。

 他にもイギリス女王の寝室やヒトラーの地下壕、海底火山の噴火で生まれた手つかずの島・スルツェイ、さらに日本からは伊勢神宮など、興味深い“非公開区域”が紹介されている。ロシアの秘密の地下鉄など都市伝説の粋を出ないようなもの、さらにはコカ・コーラのレシピ保管庫などまで、取り上げている幅は実に広い。

 もちろん、いずれも非公開とはいってもその場所を利用しているごく一部の関係者や研究者などの立ち入りは認められているので、100%非公開というわけではない。本書にも登場するチェルノブイリ立入禁止エリアのように、現在では許可を得れば一般人でも立ち入ることができるようになった場所もある。他の非公開区域も、時代が変われば誰もが気軽に足を運べるスポットに変わることもありうるだろう。

 けれど、この本を一冊通して眺めてみれば、“行けないからこそ興味がわく”というおもしろさもあると思えてくる。本書で取り上げられている99の非公開区域の中にも、マーライオンのようながっかり観光地もあるだろう。『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスの私有地「スカイウォーカー・ランチ」は、きっとスター・ウォーズファンからすれば行きたくてたまらない場所なのかもしれない。けれど、それこそ実際はただの金持ちの豪邸…というオチが待っている可能性もある。だからこそ、想像力をかきたてる“非公開区域”は、いつまでも非公開であってほしい…とも思うのだ。

 世界中、どんな場所でも簡単に行って見て楽しめる。素晴らしいことのように感じるけれど、それはそれで意外とつまらないかもしれない。

文=大久保春日