理不尽なクレーマーをぶった斬るさとり世代「ニーチェ先生」は実在のコンビニバイトがモデルだった!【作者インタビュー】

マンガ

公開日:2015/3/17

 「お客様は神様だろぅ!?」とお怒りになったお客さんに対して、淡々と「神は死んだ」と返した期待の大型新人が夜勤にやってきました。ゆとり世代ならぬさとり世代である彼の今後の活躍に期待したいところです。――これは、Twitter上で話題を巻き起こした、とあるコンビニ店員の呟きだ。

 この発言は、なんと1万リツイートを記録。そして、その呟きを元にしたマンガが出版されるという事態に。そう、それが『ニーチェ先生~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~』(松駒、ハシモト:著/KADOKAWA メディアファクトリー)である。ニーチェ先生と呼ばれる大学生・仁井智慧が、コンビニに押し寄せるクレーマーたちをバッサリと斬る姿は痛快そのもの。どんなに理不尽な客たちも、彼の前では歯がたたない。接客業に従事する人たちからは「あるある!」「言いたくても言えないことを代弁してくれている」と賛同を集め、利用する側には「もっと店員さんにやさしくなろうと思う」と反省を促す。

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 先日『ダ・ヴィンチ』3月号の誌面で発表された「次にくるマンガ大賞2015 これから売れて欲しいマンガ部門」では、第4位にランクインし、その人気が一過性のものではないことを証明した。そこで、Twitter発のマンガとして、ますます注目を集める本作について、原作者の松駒氏と、マンガを担当するハシモト氏に話をうかがってみた!

――そもそも、Twitterを使い始めた当時の状況を教えてください。

 松駒氏「秒速で反応が返ってくるTwitterというもの自体が、非常におもしろいツールだと感じていたんです。だから最初は趣味として、単純にいろんな人と交流できればと思っていましたし、自分の文章がどれだけおもしろいのかを試す場として使っていました」

――では、“ニーチェ先生”につながるツイートを呟くようになったきっかけは?

 松駒氏「2012年の2月頃、ぼくが働いているコンビニに、ニーチェ先生のモデルとなった子が入ってきたんですが、彼の話を友人たちにしたところ、非常にウケがよくてみんな笑ってくれたんですね。それで、“あ、これって結構おもしろいんだな”と思って、試しにツイートしてみたら1万リツイートを超えてしまって。それで、1年間かけて彼のことを呟いていったんです」

――マンガ化される前から、すでに松駒さんのツイートは話題になっていましたが、ニーチェ先生のモデルとなった子はそれを知っていたんですか?

 松駒氏「呟きを始めた当初はバレていなかったんですが、結局はバレてしまいましたね。それで、彼に関する呟きを終了させるという意味で、それまでのツイートをtogetterにまとめたんです。そしたら、その反響が想像以上にすごくて、彼と二人で”終わるに終われないね”…と(笑)」

――そんな経緯を踏まえてコミカライズされた本作。では、マンガを担当されているハシモトさんは、最初に原作を読んでどう感じましたか?

 ハシモト氏「コミカライズのお話をいただくまでは、松駒さんの呟きについて知らなくて。で、ネームを描くにあたって、まとめを読んでみたらすごくおもしろかった!」

――モデルとなった方にお会いしてからキャラクターデザインは決めていったんですか?

ハシモト氏「いえ、実はお会いしていないんです。松駒さんにお会いしたのも、1巻が出た後のサイン会が初めてっていう。キャラクター像が固まる前の中途半端な状態でお会いしたら、イメージがそっちに引っ張られちゃうと思ったんです。まずは純粋に、原作ネタのおもしろさからキャラクターを作っていきたかったから」

――そうしてできあがったニーチェ先生は、一部の女子から「イケメン」と騒がれているようですが、ハシモトさんはこんな男性どうですか?

ハシモト氏「わたしは、ちょっと距離を置いて付き合いたいですね(笑)」

――なるほど(笑)。では、おふたりが原作者として、マンガ担当者として苦労している点はどこですか?

ハシモト氏「1ページマンガなので、オチや絵面が被らないようにしなければならないところですかね。そしたら、(原作に登場する)松駒さんの表情がだんだん大変なことになってきちゃって(笑)。見せ方のバリエーションを考えるのは大変です」

松駒氏「ひとつのネタを140字くらいに収めるのに苦労します。おもしろくしようとすると、200字を超えてしまうこともあるんですが、そうすると1ページでは収まらなくなるんです。それと、やはり文章としてもおもしろくなければマンガにしても笑えない。だから、原作とはいえ、文章の段階で完結できるレベルのものを目指しています」

文字原稿(奥)とマンガのネーム

――本作のヒットも手伝って、世の中には松駒さんのように「SNS発の作家になりたい」と思っている人も大勢います。そんな人たちに何かアドバイスをいただけますか?

松駒氏「新人賞への投稿などの、正規のルートを通ってデビューしたわけではないことに、後ろめたさを感じることはあるんです。でも、いまはそういった人が増えてきているし、誰もが発信者になり得る。そこに賛否両論はあるけれど、意外なところからおもしろい作品が生まれるかもしれない、という意味では好ましい環境だと思うんです。そして、SNSでコンテンツ発信者としての人気を集めるのであれば、“コンテンツそのものになりきること”が大事だと思います。たとえば、コンビニ店員として発信するのであれば、学校のことや趣味のことには触れず、コンビニで起こった出来事だけを淡々を発信し続ける。そのほうが人気も集まりますし、目につきやすいと思います」

 ますます盛んになるSNS、頻繁に問題になるクレーマー問題…。本作は、まさに現代だからこそ誕生したマンガだ。もしかすると、“ニーチェ先生”は、あなたがいつも使っているコンビニにいるのかもしれない…!

文=前田レゴ

■作者のお二人のお気に入りシーンはこちら!

・第1巻「パタン。」

松駒氏「お気に入りエピソードのひとつです。これは文章だけだと風景が伝わらないので、マンガだからこそできたネタ。

・第2巻「優良店。」

ハシモト氏「わたしのお気に入りは、“この方達は接客業に蝕まれているのでしょうか?”ですね。接客業をしていた頃の研修時代を思い出します」