僕、いつまで妊娠させられますか? ―「流産をした相手に『また今度頑張ればいいじゃない』とは言わないで」【香川則子さんインタビュー後編】

出産・子育て

更新日:2015/3/28

「少子化」は人間の本能と社会のシステムのズレが原因

 先日、配偶者が出産した直後の男性の休暇取得率を、2020年までに80%となるような目標を新設した「少子化社会対策大綱」の原案に関する報道があった。政府は2015年から5年間を少子化対策強化の集中取り組み期間と位置付けていて、「男女の働き方改革」「3人以上の子どもを持つ世帯への配慮」「若い年齢での結婚・出産の希望実現」などを重要課題に掲げている。また「男性の育児休業の取得率を13%に増やす」という取り組みもなされるようだが、これが絵に描いた餅にならなければ、子どもを産み、育てる環境は今よりも改善することだろう。それには社会全体の「意識改革」も必要になる。

「いつ子どもができても、女性が人生で損をせず、子どもができたことを後悔しないようなサポート作りをしないといけないんです。子どもができたことによって何もできなくなってしまう、というネガティブな状況ではダメなんです。でも今の状況では、先輩のワーキングマザーたちを見ると大変そうにしか思えない。これでは『産みたい』と思う人が減ってしまいますよ」

 実は『私、いつまで産めますか?』のもともとのタイトルは『社会性不妊』だったという。この「社会性」は、会社の産休のシステムや子育てのサポート体制の不備など、日本の構造的な問題を指している。もちろんここには、男性や産みどきの女性以外の認識不足や不寛容も含まれている。ベビーカーで電車に乗ることに対して否定的な意見が数多くあったのがいい例だろう。そして「私たちの若いころは……」と話すおじさんやおばさんたちの話に、いちいち耳を傾ける必要はない。今は時代も、状況もまるで違うのだ。

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「少子化は、人間の本能と社会のシステムのズレが大きくなりすぎていることが原因です。社会で子どもを養っていくという姿勢がないんですね。今は不妊も、少子化も個人のせいということにされていますけど、そんなレベルでは何も解決できません。そして女性ばかりが犠牲になって、大変な思いをしている。仕事も続けていきたい、でも子どもは欲しい、じゃあ産みたいときに産むにはどうするのか? そんな人たちに助成金を出して、安心して子どもを産めるよう卵子凍結するというのが、今回、浦安市で卵子凍結プロジェクトを行う目的です。卵子を凍結保存することで人口が増えるという仮説を検証し、きちんとそれをエビデンスとして見せる、効果があるということを実証しようとしているんです。どうしたら働きながら産み、育てられるのかを考えていかないと、少子化の問題は絶対に解決しません」

 今はまだ男性が子育てに参加すると「イクメン」と持てはやされ、産休を取ると「すごい」と言われる。でもそれは女性がやったら当たり前と言われて終わりのことなのだ。「男性がやって当たり前」という社会にならない限り、このまま出生率は下がり続けるだろうし、政府が推進している「すべての女性が輝く社会づくり」なんて絵空事のまま、誰も輝かずに終わってしまうはずだ。

香川さんは本書の中で、子どもを生むためには気持ちをオフにする生活習慣を意識して欲しいと語っている。子どもが欲しい、それには何をしないといけない、とスイッチを「オン」にするのではなく、凝り固まった感情を解きほぐし、気持ちを開くような「オフ」が大事だという。これは社会も同じだ。カチカチに固まっている固定観念を打破し、様々な情報を得て相手のことを知ることが、これからの社会に必要なのだ。

そのためには男はまず自分の精子について知り、さらに本書を読んで、妊娠・出産についてもっと知るべきなのだ。そして女性も自分の体について正しい知識を得る。そうやっていろんなことをオンしてオンしてオンしまくった上で、相手の気持ちをオフにしてあげられる優しい人たちが増えることを願ってやまない。

【前編を読む】「せめて自分の精子には興味をもってもらいたい 」

文=成田全(ナリタタモツ)

プロフィール

生殖工学博士 香川則子さん

京都大学大学院卒。不妊治療専門病院の付属研究所で生殖医療を研究。ヒトの卵子保存プロジェクトと絶滅危惧種保護のプロジェクトを担当。その後、卵子や卵巣を凍結保存するプリンセスバンクを設立。カウンセリング等にとどまらず、クラウドファンディング「Makuake」を通じて卵子凍結に関する情報を広く提供している。

著作紹介