人生は誰のためにある? 辛い会社なんて辞めちゃえ! 働くすべての人に贈る人生応援ストーリー

文芸・カルチャー

2015/6/5

生活のために働いているつもりが、気づけば、仕事に生活を食いつぶされていた。会社に行きたくない。理不尽な理由で怒られ、成績ばかりを競い合う日々の中で、私たちはなぜ働かなければならないのか。青白い顔をして満員電車に乗り込み、楽しくもない仕事に従事する自分に違和感を覚える人は後をたたない。そして、心身ともに疲れ果て、思いつめてしまう人も多くいることだろう。

北川恵海・著『ちょっと今から仕事やめてくる』(KADOKAWA / メディアワークス文庫)は働くことに悩み苦しむすべての人に送りたい1冊だ。第21回電撃小説大賞<メディアワークス文庫賞>を受賞した本作は、エンターテイメントの枠を超えた、人生を応援してくれる作品。今の仕事に悩んでいる人は、誰もが涙なしでは読むことができないのではないだろうか。私たちは何のために働いているのか。何を目指しているのか。この本はぜひとも社会に出たての人やこれから社会に出る就活生にこそ読んでほしい。そうすれば、仕事に対してもっとポジティブに、かつ根を詰めすぎずに向き合えるような気がする。

主人公は、印刷会社に勤める新社会人の青山隆。ブラック企業にこき使われて心身共に衰弱した隆は、無意識に線路に飛び込もうとしたところを、偶然、小学生時代の同級生を自称する「ヤマモト」と名乗る男に助けられた。関西弁で気さくに明るく話し掛けてくるヤマモトと親しく付き合うようになるにつれて、隆は次第に前向きな気持ちになっていく。ヤマモトのアドバイスを元に仕事に向き合うと、今までうまくいかなかった仕事もうまくこなせるようになるのだった。だが、ある日、隆は「ヤマモト」の正体が小学生時代の「山元」とは別人であることに気がつく。一体「ヤマモト」は何者なのか。なぜ見ず知らずの赤の他人をここまで気遣ってくれるのか。そこにはヤマモトの悲しい過去があった。

夢や希望いっぱいに就活を始めた学生たちが社会に出てから味わう苦悩や葛藤がここには色濃く描かれている。希望通りの仕事について、その後、順風満帆な社会人生活を歩める人など社会にどれ程いるのだろう。主人公・隆は、就活に失敗し、内定をどうにかもらった中堅の印刷会社に勤める自分を恥じ、仕事の悩みを相談する友人も持てないでいた。会社では上司に理不尽に罵られ、ノルマばかりが課せられ、仕事終わりも休日も抜け殻のように過ごす日々……。だからこそ、隆の目の前に現れたヤマモトは彼の生活に大きな影響を与え始める。ヤマモトはいとも簡単に「仕事なんて辞めたらいい」という。「そんな簡単に辞められるものでもない……」と社会に出た者なら誰もが思ってしまうが、ヤマモトがその言葉にどれほど強い思いを込めていたのか、ページを読み進めるにつれ、目頭が熱くなる。

「俺の人生は、お前のためにあるんでも、この会社のためにあるんでもねえ。俺の人生はなあ、俺と、俺の周りの大切な人のためにあるんだよ!」

当人がただ辛いだけならば、生活を蝕むほど仕事にのめりこんでいくことに、何の美徳があるだろう。自分のことを「社畜」と自嘲できるうちはまだ良い。毎日を過ごすことに必死になって、自分のことも周りのことも見られなくなって何も考えられなくなる瞬間、「死んだほうがラクかも」と思った瞬間、人は本当の社畜になっている。

大切なのは、日々をいきいきと生活できているかどうかだ。隆とヤマモトのやりとりを見ていると、仕事をする意味が自然と見えてくる。大企業で働き、良いキャリアを積むことがすべてではない。そんな安いプライドなど捨ててしまえば良い。人生には勝ち負けなどない。そんな大切なことをどうして人は見失ってしまうのだろう。

自分の人生と向き合った結果ならば、時には逃げ出したって良い。追い詰められた日々を送る人々にとって、この本は読む方位磁石となり、アナタが向かう先を指し示してくれるに違いない。

文=アサトーミナミ

ちょっと今から仕事やめてくる』(KADOKAWA/メディアワークス文庫)