出世競争に破れ“仮面イクメン”を演じる中年男性の苦悩とは―おびえる男たちの本音

社会

公開日:2015/5/28

 「ミドルエイジクライシス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。訳すと「中年の危機」。中高年のとくに男性を対象にしたもので、この年代に訪れるさまざまな問題から陥るうつ病や不安症のことをいう。中年になると、未婚者は焦燥を感じ、家庭では子どもの将来や親の介護に悩み、同時に自分の老後を心配し、会社では中間管理職として上から責任を押し付けられ、下からは突き上げられるといった板挟みに遭う。結果、心を壊してしまう人が少なくない。

 『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社)の著者である奥田祥子は、「現代の中年男性はまるで漂流しているようだ」と述べている。世間では女性が強くなったといわれるが、世の男性たちは弱音を吐かず、競争に勝ち、家族を引っ張っていかねばならないという旧来の「男らしさ」に縛られながら、重層化・深刻化している現代のさまざまな問題に太刀打ちできず、当てもなくさすらっている。苦悩する漂流人。そんな印象なのだろう。

 たとえば、育児においても、中年男性の苦悩が見られるという。「イクメン」という言葉がすでに定着している。厚生労働省は2010年度に「イクメンプロジェクト」を発足させており、今や国までが「イクメン」の言葉と概念を用いて、父親の子育て支援を進めている。そもそも男性の子育て参加は、女性の出産後の就労継続率を高め、少子化対策につなげるというねらいがある。前述の「イクメンプロジェクト」によると、男性の育児参加により、妻は生き方に柔軟性が生まれ、子どもは可能性が広がり、イクメン本人は子育てを楽しいだけでなく自分自身の成長も期待できるとしている。

 家族みんなが幸せになるはずの「イクメン」。しかし、著者は取材を重ねるなかで“仮面イクメン”という歪みを知る。

 4歳の長女を持つある父親は、育児情報を交換する「パパサークル」に入り、1、2カ月に1度の集会に毎回参加。育児を分担すること、仕事と両立させることをひっくるめてイクメンであることを楽しいと公言する人物だが、じっくりと話を聞くと、漏れてきたのは現在のつらい心境。出世競争に破れ、妻の期待を裏切った後ろめたさから「イクメン」を演じていたという。“仮面イクメン”である。男性の談によると、社会が「イクメン」と騒ぐのがわずらわしくて仕方がない。育児にたくさんの時間を割いて、楽しく格好よく「イクメン」を実践できるのは、時間の融通がきくフリーランスや自営業、専門職、公務員などの一部分。それを見習えといわれても、普通の会社員では無理。「イクメン」という仮面をかぶり、男としての存在感を育児で穴埋めしようとしても、仕事や時間という足かせが男性を理想から引き離す。

 では、時間に余裕がある男性なら、理想のイクメンになれるのだろうか。著者は専業主夫の男性にも取材している。この人物は、家にいるという立場を生かし、息子の早期英才教育に熱心。有名私立大学の付属小学校を受験させるために、つきっきりで指導している。著者は初取材時、この男性の子どもへの尋常ならざる執着を感じたという。あらためて取材ができたのは5年後。男性から聞かされたのは、この間に虐待をしてしまったという驚愕の事実だった。しつけのつもりが自覚のないままエスカレートしたというが、有能で立派な父親であることを周囲に誇り続けたかったと本音も吐露している。

 別のフリーランスの男性も、双子の“お受験”のため家庭学習に力を入れていたが、やがて「子どもの存在そのものが鬱陶しくなった」と発言し、著者を驚かせている。

 世の中で勝者であることを期待される一方で、出向・転籍、リストラなど、男としての存在危機を感じさせる社会の変化が、中年男性をますます優劣や勝ち負けに過敏にさせている。育児では育児競争に拍車がかかっている。中年男性が悩める現状を突破できるかどうかのカギは、仕事や家族との向き合い方である、と締めくくっている。

文=ルートつつみ