「出版界におけるビジネスモデルの一部」 ゴーストライターの存在意義とは?

文芸・カルチャー

2015/6/8

ゴーストライターという、これまでに暗黙の了解として存在しつづけてきた〈職業〉に、にわかに注目が集まったのは、2014年の「佐村河内守事件」であることはいうまでもない。新垣隆の告発が週刊誌に掲載されてから1年以上が経ついまも、この騒動がドキュメンタリー映画になるという報道が出たり、新垣氏がなぜかスピリチュアル・カウンセラーの江原啓之を対談相手に「佐村河内さんの依頼をなぜ断れなかったのか」(「婦人公論」2015年6月9日号)を語ったり、いまだしばしば話題にのぼる。

そんな佐村河内事件をスクープしたのは、自身も数多くの著者のゴーストライターを務めてきた神山典士(こうやま のりお)さん。「新垣さんのことを書くのであれば、自分のことも書いておかなければ」という思いから、『ゴーストライター論』(平凡社)を著した。

出版界では、その存在なしでは多くの本作りが成り立たないといわれている。しかしその実態は、ゴーストライターをしている本人にもわかっていないことが多い。かくいう筆者も、これまで両手に余るほどの数の本でゴーストライターを経験している。著者となる人物のことばを、あるいは生き様を世に伝える仕事にやりがいを感じたものだが、騒動を機に世間がこのゴーストライターという職業に向ける視線は決して好意的なものではないと知った。田舎の両親から「あなたは大丈夫なの?」と電話までかかってきた。読む側にとっては〈幽霊〉なのだ。自分が書いたものを「著者がかいたものだ」とウソをつく、得体のしれない存在……。だからこそ、神山さんにうかがいたい。ゴーストライターって実のところ、何者なんでしょう?

神山典士さん(以下、神山)「本を著したいと思うすべての人にわかりやすい文章が書けるわけではないし、書く時間がない人もいますから、出版界には聞き書きという手法が昔からありました。話を聞くだけでなく取材して書くという作業が加わったゴーストライティングもあります。この作業を経てはじめて世にその人の本が出るわけだから、ゴーストライターというのは〈必要悪〉でもタブーでも何でもなくて、出版界におけるビジネスモデルの一部なんですよ。でも実際には出版界でもいまひとつ認められていなくて、それゆえ立場が危ういところがあり、実際にトラブルも多い。でもここまで業界に不可欠な存在なんだから、一度整理したほうがいいという思いもあって本書を書きました」

そうはいっても「実際はその人が書いていない」ということに対する世間の厳しさは、佐村河内事件で明らかになっているが……。

神山「文章でも音楽でも、〈作家〉の後ろにゴーストライターがいるというのは、これは許されることではありませんよ。みんなその人自身から出た言葉やメロディを待っているのに、そこにほかの人が創ったものを出したら、それは騙されたっていう気になりますよね。歴史に名高い大物作家がゴーストライターをやっていたという話もあるし、いまでも今春のドラマ『ゴーストライター』のようなことがどこかで起こっているかもしれない。でも、それとサッカー選手や政治家、経営者が“このライターに手伝ってもらって本ができましたよ”というのとは、まったく別の話です」

そこで神山さんはゴーストライティングではなく〈チームライティング〉と言い換えてはどうだろうと提唱する。

神山「幽霊というと、どうしてもネガティブなイメージがありますからね。それよりも著者・編集者・ライターがそれぞれの専門分野を活かし、チームワークとして1冊の本を作り上げていくもんだと考えてほしいんです。これがうまく機能したときに名作が生まれる、というすばらしい例を本書でもいくつか紹介しています」

たとえば1978年に刊行され、いまだ読み継がれる矢沢永吉著『成りあがり』(小学館、後に角川書店)。永ちゃんの生きざまを、当時、新進のコピーライターだった糸井重里がしたためたのはあまりに有名な話だ。

神山「このチームを思いついたのは、編集者の島本脩二さん(現在は退職)。社会のどん底から時代のトップに駆け上がった矢沢の生き方を音楽ファン以外の人、ふだん本を読まない人たちに広く届けたいと突き詰めて考えたら、この人選に行き着いた。もうそれだけで、企画として成功していますよね。三人とも当時29歳前後で、同世代。時代を代表する大ベストセラーとなって、当然、第二弾も期待されましたが、彼らはもう二度と同じレベルのものは作れないと判断して出さなかった。『成り上がり』は、一期一会の真剣勝負だという気持ちで臨んだチームワークの賜物なのでしょう」

本をチームで作るという考えのもと、神山さんは著者と関係を築きながら取材を重ね、その人の現場に同行し、同じ風景を見、同じ空気を吸って執筆する。それを編集者がジャッジをし、ときに著者とライターとのあいだで交通整理を行う。……こう考えると、読者にとってもゴーストライターの存在意義が腑に落ちるのではないだろうか。

神山「あなたがあるカリスマ経営者のことを知りたいとして、ゴーストライターは彼のチームメイト。その経営者のことばをいちばんわかりやすく、いちばん丁寧に伝えてくれる代筆の役割を果たす人であると見てくれればいいんです。チーム内で価値観や方向性を共有してできた本であれば、こちらからも読者に対して胸を張って“自分たちチームの作品です”といっていきたいですしね」

そう、ゴーストライターは決してネガティブな存在ではない。チームのなかで職人的な役割を求められるため、当然、スキルが必要でもある。本書には神山さんなりの執筆メソッドも多数収録されている。そして、こうして長らくライティングを生業としてきた神山さんだから、その喜びも知りつくしている。

神山「ゴーストライティングするプロセスのなかには、取材のおもしろさもあれば、著者と関係性を築いていくときの充実感もあります。でもそれ以前に、クリエイターとしての根源的な喜びがあると僕は感じています。自分はまったく知らなかったジャンルを、その著者と一緒に体験して、あるいは独学して身につけていくなかで知的好奇心が大いに刺激されます。そのうえで著者にシンクロし、自分が著者その人になりきって書く……。これは、ほかではできない体験です。だから、ゴーストライターはおもしろい。なかにはそれがギャランティ以上の報酬になるという人もいます。僕はこれからもチームライティングを続けるし、若い世代もどんどん育ってほしいですね」

取材・文=三浦ゆえ