「子どもたちには見せたくない!」 珍作奇作マンガを徹底紹介『このマンガ 恐るべし…!!』【著者インタビュー】

マンガ

更新日:2015/6/12

 マンガやアニメを筆頭とする日本のポップカルチャーが海外で高い評価を受け「クールジャパン」としてもてはやされている昨今。年々進化を遂げるマンガ業界では、海外ファンをもトリコにする数多くの素晴らしい作品が生み出されている。しかし、日本が誇るマンガ文化の多様性を語る作品は『ONE PIECE』や『NARUTO』ばかりではない。キミは知っているのか、『庭師一代』(たがわ靖之/講談社)を。『格闘職人アウディ』を!? そんな「なんだこれは?」と思わずタイトルからして二度見してしまうようなマンガばかりを集めてレビューしているのが今回紹介する『このマンガ 恐るべし…!!』(J君/彩図社)だ。

 本書は、2001年に開設されたWebサイト「BLACK徒然草」 の書籍化第2弾。同サイトは、管理人であるじゃまおくん(J君)が、マンガのほか映像作品やゲーム、時には食品にいたるまで、気になったさまざまなモノをジャンル問わずレビューし掲載している老舗テキストサイトだ。2006年には、当時知る人ぞ知る名作であった『孤独のグルメ』 をレビューし、ネット上で大きな話題を呼んだ。その後の『孤独のグルメ』ブームに火を付けた影の立役者でもあるのだ。

advertisement

 書籍化にあたっては、サイトに掲載されたもの以外に、新たに10作品のレビューが書き下ろしとなっている。その中からいくつか挙げてみると、『突撃!ゲームボーイ』(こいしさとし/小学館)、『押忍!!スーパーあけぼの精肉部』(さかこし憲周/集英社)、『ソープ水滸伝』(出井州忍:著、古山寛:原著/司書房)、『暴乳拳』など、ふだん書店などではあまりお目にかかった覚えのないマンガのタイトルがずらりと並んでいる。

 今回は、本書の著者であるJ君にインタビューを行い、書籍化のいきさつや、オススメの作品など、本書を楽しむ上で役立つ(?)かもしれないさまざまな質問にお答えいただいた。

――どういったきっかけで第2弾書籍が発売されることになったのでしょうか。

 もともと前著を出した時は、そんなに売れないだろうし20代のうちにヌードグラビアに挑戦するタレントみたいなノリで、「一生に一度の記念になるからいいか」みたいな気分で出したもので、まさか第2弾の話が来るとは思ってなかったんですよね。去年の2月ごろ「(サイトの)レビュー記事も増えてきましたし、そろそろ第2弾どうですか?」と彩図社の担当の方から連絡があって「マジで! やるやる」って感じでやることになりました。

――今回取り上げたマンガはどんな基準で選ばれたのですか?

 Webサイトで自分が紹介した時からずいぶん時間が経っているものが多くて、書籍にした時どれが面白いのか自分では客観的に見られなくなってしまっていました。なので、まず担当編集と相談して、作品をピックアップしてもらい、その中で内容がかぶらないようにバランスを考えて選定していった感じです。
 書き下ろし分についてはサイトで紹介したかったけどワケあって紹介できなかったものばかりです。レアすぎて入手困難な作品を出版社のコネで裏から手を回してゲットしてもらったり、プレミアがつきすぎて個人ではとても買えない作品を経費で買ってもらったりですね。……ってそんなこと、ここで言っていいのかわからないけど(笑)。

――今回取り上げている漫画の中で一番「恐るべし」と思ったのはどの作品ですか?

 『押忍!!スーパーあけぼの精肉部』はまさに恐るべしです。「スーパーで肉をさばく」という行為をバトルに仕立てあげてしまうという内容は常人には中々考えつきません。「この世にマンガにできないジャンルはないんだ!」というマンガの持つ無限の可能性を感じさせる作品です。

――取り上げているマンガはどれも、ひとクセもふたクセもあるような個性的な作品ばかりです。絶版になっていたりするものも多いようですが、こうした作品をどうやって探すのですか?

 自分はたぶん特殊だと思うのですが、なにかキーワードを思いついたらそのキーワードと「マンガ」の組み合わせをネットで調べてみることにしています。「お遍路×マンガ」
ゲートボール×マンガ」など。時事ネタでは「ゴーストライター×マンガ」とか。掛け合わせるキーワードが変であればあるほど予想もしなかった奇抜なマンガが見つかるんですよ(笑)。

――あとがきに書かれていたのですが、第1弾書籍で娘さんが、そして今回の書籍化のタイミングでは息子さんが誕生されたそうですね。もし、それぞれのお子さんに今回取り上げている漫画の中から1冊ずつ贈らねばならないとしたらどれを選びますか?

 えっと、すごく難しい質問です(笑)。基本的に、この本で紹介しているようなぶっ飛んだマンガを読むことなく健やかに育って頂きたいのですが……。

――そこをあえて! 選ぶとすれば何ですか?

 うーん……強いて言うなら長女には将来料理を作るようになった時のために「ときめきインスタントラーメン」(※1)を。長男にはイケてる社会人になってもらうために「銀行員 祥平がんばる!」(※2)を贈ります。……1いや、やっぱり贈りたくない(笑)!

※1:アメリカから日本にやってきたジョンソンがインスタントラーメンの魅力にハマりつつ日本人女子にラブアタックを試みる異色のラブコメ

※2:地方銀行の平社員である井賀祥平が、チンピラを挑発してボコボコにされ融資話をうやむやにしたり、結婚式直前で婚約者に浮気がバレて修羅場になったりする銀行員マンガ

――「BLACK徒然草」はテキストサイト全盛期から現在まで変わらず一定の人気を保っているいわば長寿サイトですが、続けていく秘訣はありますか?

 月2回ぐらいしかサイトを更新しないスタイルがもう7~8年続いてますが、このぐらいのペースがネタ切れしなくてちょうどいいみたいです(笑)。無理をしないで自分のペースというのが一番なんでしょうね。あと、レビュー対象となる作品は基本的に全てリスペクトしているので「愛のある毒舌」を心がけています。

 海外で評価されていようが、いなかろうが、確かに日本のマンガは面白い。面白いだけではなく、とても奥深いものでもある。そんな一面を気づかせてくれる本書で、今まであなたが知らなかった深遠なマンガの世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

取材・文=本宮丈子