もしもある日、男友だちがスカートを穿いてきたら…!? 本当の意味での「男女平等」を問いかけるマンガが登場

マンガ

更新日:2015/6/23

 いまの世のなか、「男女平等」という考え方は当たり前のこととして認知されている。だが、それはまだまだ「建前」であるようにも思う。女性が男性と同じことをすれば「男勝り」と言われてしまい、その逆をすれば途端に「女々しい」というレッテルを貼られてしまうからだ。なんだかんだいって、ぼくらはジェンダーに囚われている。むしろ、そうでない人を探すほうが難しいくらいに。

 でも、「男らしさ」「女らしさ」よりも、「自分らしさ」が大切なのではないか。『ボーイ★スカート』(鳥野しの/祥伝社)は、ぼくらの根底にあるジェンダー的な考えに揺さぶりをかけるマンガだ。

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 主人公の男子高校生・桃井くんは、とある夏の日、女子の制服であるスカートを穿いて登校する。本人は恥ずかしそうでも、気まずそうでもなく、颯爽と。問題はそれを目にした周囲の人たち。同級生は、「優等生だった桃井くんがおかしくなった」「怖い」「ショック」などと大騒ぎし、教師は彼に着替えることを強要する。さらに、桃井くんの彼女である水先輩は、そんな彼をフッてしまう。

 桃井くんは、決して女性になりたいわけでも、女装がしたいわけでもない。彼がスカートを穿こうと思ったのは、ある日、駅でスカートを穿きこなす男性を見たから。その凛とした姿がカッコよくて、「スカートは女性しか穿いちゃダメだと思っていたけれど、全然そんなことなかったんだ」と気づいたのだ。でも、周囲はそんな桃井くんをなかなか受け入れてはくれない。唯一、その行為をおもしろがってくれたクラスメイト・白井さんを除いて。

 こんなに男女平等が叫ばれているなかで、どうして男性がスカートを穿くことに過剰反応を示すのか。桃井くんは、誰に迷惑をかけているわけでもなく、ただ純粋に「着たい」と思ったから着ているだけなのに。

 作中にこんなセリフがある。

「暗黙のルールで自分を縛っている人間にとって、そこからはみ出した者は“異端”であり“脅威”だ」

 要するに、「スカートは女性が穿くもの」という概念に囚われている者からすると、桃井くんのような存在は、異端であり、脅威であり、ある種の暴力でもある。そして、そんな「人の気持ち」は、結局どうしようもないことなのだ。桃井くんが「スカートを穿きたい」という欲求を曲げられないのと同じで。

 では、どうするのか。結局、考えが違う者同士は、一生交わらないのか。答えはNO。

 桃井くんは、父親、友人、水先輩ら周囲の人間に、自分の素直な想いを伝える。「おれはおれのままでスカートを穿いて歩きたかっただけ」。そして白井さんは、彼に対して誤解をしている同級生たちを一喝する。「(性同一性障害とか同性愛とか理由づけするのは)自分たちがスッキリしたいだけだろ!」。その結果、少しずつではあるが、桃井くんは受け入れられていく。結局、彼が彼であることに変わりはないのだ、と。

 もちろん、現実はこう簡単にはいかないだろう。差別や偏見はなくならないし、いつまでたっても「男らしさ」「女らしさ」を求められるシーンは減らない。だけど、そこで思考停止するのではなく、もう一歩踏み込んで「自分らしさ」「その人らしさ」を尊重し合えるようになったとしたら。そういったジェンダーの垣根を取っ払ったとき、初めて、本当の意味での「男女平等」が訪れるのではないだろうか。

 ちなみに、作者である鳥野氏は、実際にスカートを穿く少年を見たことがあったそうだ。そのときの衝撃的な気持ちが忘れられず、本作を生み出したという。世のなかに大きな問いを投げかける作品が生まれたきっかけとなったその少年に、いまはただただ感謝したい。

文=前田レゴ