「オレオレ詐欺」集団VS大阪府警の息詰まる攻防! 直木賞作家・黒川博行最新作『勁草』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

 美術界に産廃業界、金融業界にパチンコ業界と、ありとあらゆる業界の裏側にスポットをあて、隠されたタブーや弱者をいたぶる腐敗構造を暴くミステリを書き続けてきた黒川博行。最近でも直木賞受賞作『破門』で暴対法によって苦境に立たされる任侠を、『後妻業』で高齢者の財産・保険金狙いの裏稼業を描くなど、現代犯罪を追う姿勢は一貫して崩さない。その黒川が最新作『勁草』(徳間書店)で選んだテーマは電話口で親族を偽り、高齢者から金を奪い取る「オレオレ詐欺」である。

 『勁草』は2つの視点から構成される物語だ。
 ひとつは「名簿屋」に雇われる橋岡という犯罪者側の視点である。「名簿屋」とはオレオレ詐欺の標的候補をリスト化する人物のことだ。橋岡は高城という「名簿屋」のもとで、実際に被害者から金を受け取る「受け子」の仕事を請け負っていた。標的をまんまと騙し金を取ろうとする橋岡だが、得た金のほとんどは「名簿屋」である高城に吸い上げられてしまい、自身は金のない生活を送っている。おまけに相棒である矢代が賭博で借金を背負いこんでしまい、橋岡もその負債を肩代わりさせられる破目に。困り果てた橋岡と矢代は高城に金の無心をするが、これがとんでもない事態を招いてしまう。

 橋岡視点のパートでは、「名簿屋」「受け子」をはじめ、電話で被害者を騙す「掛け子」、詐欺に使うための携帯電話や架空口座を調達する「道具屋」まで、恐ろしいまでに細かく組織化されたオレオレ詐欺集団の実態が暴かれていく。扱うテーマや題材に対する徹底した取材に定評のある著者だが、本作でも遺憾なく発揮されている。もちろん、読みどころはオレオレ詐欺に対する知識だけではない。橋本の相棒である矢代がどうしようもなく愚かなキャラクターとして描かれており、彼の愚行のおかげで物語が次から次へと最悪の方向へと転がっていく。このずぶずぶと泥沼にはまっていく感覚が、本作をクライムサスペンスとして読み応えあるものに仕立てているのだ。

 もうひとつのパートは、大阪府警特殊詐欺捜査班の刑事たちの視点だ。特殊詐欺捜査班はオレオレ詐欺を追う特別チームであり、ここでは捜査4課出身の佐竹、生活安全課出身の湯川という刑事コンビが登場する。やや無骨な佐竹とおおらかなイメージの湯川が互いを「ゆーちゃん」「先輩」と呼び合いユーモラスな会話をしつつ、地道な捜査でオレオレ詐欺集団を追いつめていくのだ。黒川は刑事コンビの軽妙な掛け合いと謎解きパズルの趣向を詰め込んだ警察小説シリーズをキャリア初期に発表しているが、本作も間違いなくその系譜に連なるものである。

 犯罪者と刑事。追う者と追われる者のドラマが交差した時、物語は舞台を変え、滑稽かつ残酷な場面をもって終幕を迎える。オレオレ詐欺という身近な凶悪犯罪に関わった人物達がどのような結末をたどるのか、ご自身の目で確かめてほしい。

文=若林踏

『勁草』(黒川博行/徳間書店)