アノ動画が流出…リベンジポルノの被害者の人生はどうなる…!? 暗澹たる現実を描いた『水色の部屋』が衝撃的

マンガ

公開日:2015/7/8

 ここ最近、若い世代のネットリテラシーが問題視されている。自身の犯罪行為をSNSに自慢気に投稿するだけでなく、赤の他人を盗撮した画像を勝手にアップロードしてしまう者までいる。インターネットに投稿した内容を完全に削除するのは、ほぼ不可能。一度投稿された画像や動画は、半永久的に誰かの目に触れることになる。その深刻さを理解しているのか。その最たるものが、「リベンジポルノ」だ。

 普通は恋人にしか見せないあられもない姿が、ネットの海に投下されてしまう。自分の裸の画像やセックス動画が、瞬く間に拡散していく。気がついたときには、すでに遅し。もしも被害者になってしまったとき、ぼくらの生活はどう変わるのだろう…(そもそも、そんな写真を撮らせるほうも悪い、という声もあるけれど)。

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 そんなリベンジポルノの被害者となってしまった女子高生を描いたマンガが、『水色の部屋』(ゴトウユキコ/太田出版)だ。

 この作品を一読した感想は一言。救いがない。

 ドロドロした人間の業が描かれており、不快感はMAX。けれど、ページをめくる手は止められなかった。それは、誰もが本作の登場人物になり得る可能性を否定できなかったから。目を背けることはできない現実的な恐怖が、そこにはあったのだ。

 物語の主軸となるのは、母親であるサホに対して性的興奮を抱いてしまう、高校生・柄本正文の葛藤。洗濯カゴに無造作に放り込まれたサホの下着を目にしては、母親に抱くはずのない興奮を覚え、悶々としてしまう。正文がそうなってしまったのは、過去に母親が暴行される現場を目にしてしまったから。その瞬間を境に、彼のなかには抗いきれない欲求が生まれたのだ。…と、これだけでもなかなか重たいストーリーなのだが、本作では、さらに正文の幼なじみである三吉京子が、地獄に突き落とされてしまう。そう、彼女は「セックス動画流出」の被害に遭ってしまうのだ。

 その犯人は、正文のクラスメイト・河野洋平。彼はパッと見好青年で、周囲からの評判もいい。京子もそんな彼に惚れ、交際をスタートさせる。しかし、そこから京子の人生は少しずつ傾いていく。洋平は京子に下着やオシッコを売るバイトを強要し、その挙句にはハメ撮り動画まで撮影してしまうのだ。そして、その動画が、あるとき流出してしまう。

 クラスメイトから「このセックス動画に出てるのって、京子に似てない?」と訊かれ、押し黙る彼女。強く否定すればするほど、それは認めているということになる。あっという間に拡散していった動画はみんなの記憶から消えることもなく、彼女は「ヤリマン」「病気」だと噂され、次第に居場所を失っていく…。

 事態は深刻だが、洋平はあっけらかんとした様子。「仲いい先輩に見せようとしたら、流れちゃった」と、ヘラヘラ笑うだけ。しかも、絶望に打ちひしがれる京子に、「お前だって撮られて喜んでただろ」と追い打ちをかける始末。汚い言葉で恐縮だが、あえて言おう。洋平は正真正銘のクズだ。

 洋平の被害者となるのは、京子だけではない。正文、そしてサホも、彼からひどい仕打ちを受ける。そして、自身の欲望と洋平への憎しみに囚われた正文は、ある決断をくだす。

 本作は上下巻という短さながらも、非常に濃厚。じめじめとした不穏な空気が読者を包み込むだろう。本作の感想として、「救いがない」と書いたが、再び読み返してみたところ、ラストで一筋の希望が見えたような気もした。ただし、それは絶望の底にいるからこそ見える光。正文と京子が地獄にいることに、違いはないのだ…。

文=前田レゴ