欲しいギターは借金してでも手に入れろ! 野村義男ギター写真集イベントレポート

音楽

更新日:2015/7/23

  • 野村義男

 ギタリストの野村義男さんが所有する、貴重なヴィンテージのギターから「なんじゃこりゃ!?」なギターまで、集めに集めたコレクションを惜しげも無く披露した写真集『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』が発売された。それを記念し、野村義男さんと『ギター・マガジン』の野口広之編集人によるトークセッションが開催された。

掲載されているギターの総数は?

 まずは本書の撮影時の裏側に迫る「ヨッちゃんのギター・コレクションを全部並べてみた(ロング版)」の上映があり、並べられたギターを見て「こんなにあるとは自分でも思ってなかった」と言う野村さん。中でもお気に入りのギターを聞かれると……「僕の中での一番は、1965年製のフェンダー・ストラトキャスターのフィエスタレッドですね。コレと出会った時に、もう他のストラトは手に入れなくてイイと思いましたね! まあその後に20本くらい増えてますけど」

 さらにギターは楽器店に見に行くだけではなく、気に入ったら買え、借金してもとにかく手に入れろ、出会った時に手に入れないと手に入らない、と断言、ギターへの熱い思いを語った。さらに「これだけあってわかったのは、弾けるのは一度に一本!」という至言も飛び出した。

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 そしていよいよ野村さんが会場に登場! 抽選で選ばれて会場に集った中にはまだ10代のファンもおり、野村さんは開口一番「あんなにギター持つもんじゃないよ。保管大変だから!」と会場の笑いを誘っていた。野口編集人からの「ギターは全部で352本ありました。あと13本あったら日めくりカレンダーができたんですけどね」との問いかけに、会場が楽器の街・お茶の水に近かったため「すぐそこに売ってるじゃないですか!」と言う野村さんですが、すでに撮影後に手放したものもあり、現在は300本を切るほどだとか。

  • 野村義男

「僕は溜めていくのが趣味ではなくて、この子とはずっといたいというギターを置いているんです。過去で言うと、総数は600本以上だと思います。10本売って1本買ったギターとか、もう写真しか残っていないのもありますよ。でも今後の方向性としては、減らしていきたいなと。自分で管理できるのは300本が精一杯ですね。僕はギター用に倉庫を借りているんですけど、盗難とか災害の危険もあるので、3、4ヶ所に分けているんですよ。でも減ったので…ギター増やすことできますね(笑)」

 本書に掲載されている、たのきんトリオ時代に映画『グッドラック LOVE』の撮影で訪れたニューヨークで購入した1966年製「フェンダー・エスクワイヤー」の話や、リック・デリンジャー、ジョー・ウォルシュ、エース・フレーリー、リック・ニールセンといった錚々たるギタリストが所有していたギターのこと、また野口五郎さんから10代の時に譲り受けた1976年製「フェンダー・ムスタング」の色を塗り替えまくって叱られた話なども飛び出した。ちなみにそのムスタング、現在はペイズリー柄になっているそうだが、野口さんにはまだ内緒だという。「五郎さんにはなるべくこの本を見られたくないんですよ。だからなるべく会わないようにしてます。もし向こうから歩いてくるのが見えたら、路地に入るようにしてます(笑)」

コレクションの原点は「アリアプロII」

 ヒドい時は1日に3本も買ったりしたという、現在まで続くギター・コレクション遍歴。その原点は、中学生の時に買った1978年製「アリアプロII ステージキャスターST-400N」だったという野村さん。

「当時24800円で、池袋の楽器屋で買ったんですけど、中学生には大金じゃないですか。で、そこは一緒に行った友達の知り合いの店だったんで、お金を後で払うといって、持って帰ってきちゃったんです。もう家で怒られて! でも『一生使うから!』って泣き落としました(笑)。でも半年後に次のギター買ったんですけどね、グレコのエース・フレーリーモデルを(笑)。その辺から始まってますねぇ」

  • 野村義男

 本書ではメーカー名の「A」から「Z」の順で並んでいるため、このギターは「A」の一番最初に載っている。様々な改造が施され、裏には昔の家の住所が書いてあったり、山口百恵さんのシールを貼るなどしているが、現在も所有しているので「一生使うから!」はウソではなかったようだ(ちなみにアルファベットでギターがなかったのは「Q」と「U」と「X」だ)。

 自身のバンド「THE GOOD-BYE」を解散した後、やりたいことを考えた末、やはりギターを弾きたいと思った野村さんは、1954年製のリイシューモデルである黒の1972年製「ギブソン・レスポール・カスタム」を購入したそうだ。

「新しいギターを買うと、そのギターが練習させてくれるんです。弾きたくなるから。そうやってるうちに300本くらいになって、ようやくギターが弾けるようになるんじゃないですかね!(笑) そのレスポールにはフレットレスワンダーという低いフレットが付いていて、僕は弾きにくいからフレットを全部抜いて、高いものに交換したんです。普通はそのフレットって捨ててしまうんですけど、全部取っておいて、ギターと一緒に持っていたんです。そしたらそれから20年後に、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠さんから『フレットが減ってしまったんだけど、今のフレットは打ちたくないから、どこかで当時のものが手に入らないか?』と聞かれたので、よかったら使ってください、って。だから今はそのフレット、鮎川さんのギターに入ってるんです」

 そしてギターだけではなく、パーツ類も膨大な数を所有しており、引き出しには年代、メーカー、色などで分けてキッチリ収納されているという。

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野村さんなりの「恩返し」

 置き場所がなくなるとギターを売るという野村さんは「欲しがっている人のところにいくのが楽器の幸せ」と言う。しかし貴重なヴィンテージギターについては……

「きれいなヴィンテージは、弾き倒してしまうと楽器として終わってしまうんです。でもそれは申し訳ないなと思ってるんです。このギターを22世紀に残すため、きれいな状態で残しておくために僕が選ばれたわけですからね。江戸時代の壺に水を入れちゃいけないのと同じですよ。時々出して弾きますけど、しまうのに2時間はかかります。あちこち拭かないといけないので。そして基本的には素手で触らないです」

 また野村さんには「いつも違うギターを持つように心がけている」というポリシーがあるという。その理由を野口編集人に聞かれると「恩返し」という答えが!

「ギタリストのイメージってあるじゃないですか。あのギタリストは◯◯のギターを使ってた、みたいな。でも僕は楽器屋さんに色々教えてもらってギターを好きになって、ギターに人生を変えてもらったので、楽器屋さんに恩返ししたいんです。楽器屋さんに行く人を増やしたいんですよ。だから人前に出るときは違うギターを持つようにしてるんです。見た人が『今日使ってたギター、なんだろう?』って調べて、楽器屋さんに行く、それが僕の恩返しなんです。この本を『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』ってタイトルにしたのも、同じ理由です。僕が若い頃って、楽器屋さんにいろんな人やミュージシャンがたむろしていて、その人たちと一緒にCD作ったりしたんですよね。だからみんなも楽器屋さんに遊びに行ったらいいじゃない、と。この本がきっかけになって、気になるギターがあれば検索して、もっとギターのことを知ってもらったらいいなと思いますね」

 トークショー終了後、野村義男さんを直撃インタビュー!
⇒僕がギターにハマったように、楽器が好きな若い子たちに読んでもらいたい 野村義男インタビュー

ギターコレクション

■『野村義男の”思わず検索したくなる”ギター・コレクション YOSHIO NOMURA GUITAR COLLECTION
編集:ギター・マガジン編集部
価格:2,200円(+税)
発売日:2015年6月25日(木)
仕様:B5判/144ページ
出版社:リットーミュージック

取材・文=成田全(ナリタタモツ)