『カリオストロの城』の原点がここに! 『幽霊塔』の魅力を巨匠・宮崎駿がカラー漫画で解説!!

文芸・カルチャー

2015/7/29

 宮崎駿監督といえば何の作品を思い出すかと問われれば、人によって意見が分かれるところだろう。『風の谷のナウシカ』を挙げる人もいれば、『千と千尋の神隠し』を推す人もいるはずだ。私自身はといえば、それは間違いなく『ルパン三世 カリオストロの城』なのである。作品冒頭の国営カジノから現金を盗んで逃走、それがニセ札だと分かるや愛車のフィアット500から札束を放り出す中で主題歌「炎のたからもの」が流れ始める一連の映像は、今でも即座に脳裏で再生可能だ。ストーリーもさることながら、カリオストロ公国の美しい景観や象徴的にそびえ立つ時計塔の威容など、その世界観にも大いに魅了されたものである。

 『カリオストロの城』でも重要な鍵を握る「時計塔」の存在だが、その源流となる作品が『幽霊塔』だ。元々は英国の作家A・M・ウィリアムスンが1898年に発表した小説「灰色の女」を明治時代の作家・黒岩涙香が翻訳したもので、江戸川乱歩の作品はそれをリライトしたものである。宮崎監督は60年前、およそ14歳頃に乱歩本に出会い「子供の時に乱歩本で種をまかれた。妄想はふくらんで画工になってからカリオストロの城をつくったんだ」と語っている。

 そして江戸川乱歩没後50周年となる2015年、「三鷹の森ジブリ美術館」(日時指定の予約制)では5月30日から「幽霊塔へようこそ展」を開催。時計塔や迷路などが再現され、描き下ろされた解説漫画が展示されている。今回の新装版『幽霊塔』(江戸川乱歩 著、宮崎駿 イラスト/岩波書店)ではその解説漫画をカラー口絵として16ページに渡り掲載しており、記念出版にふさわしい豪華な内容となっている。

 カラー口絵では、作中の時計塔を自身の“妄想”として図解。現実的な解釈では時計塔と建物は一体化しているが、監督の考えとしては別棟となっているのが面白い。『カリオストロの城』では時計塔は完全に別棟として存在したが、なるほど納得である。

 また原作と涙香本、乱歩本の違いについても言及。原作では財宝の部屋が中二階にあるのに対し、涙香はそれを地下に変更。さらにルビーなどの財宝も増量して世間受けを狙ったとする。乱歩本は涙香本の舞台がイギリスであったのを日本に変更したため財宝を小判に変更し、宝の稀少性が減少した分、地下迷宮を作り上げたのだと分析している。漫画で描かれているので非常に伝わりやすく、宮崎監督が涙香や乱歩をどのように捉えているかが絵の調子でなんとなく分かるのも見ていて楽しい。

 この漫画はカラー口絵なので本の巻頭に載っているのだが、実は小説の読了後に触れたほうがより楽しめるように思う。なぜなら時計塔の内部構造をイラストで詳しく説明しているのだが、これは作品内で時計塔がどのように動作していたかを知っていなければ、イマイチピンとこないのである。時計塔の秘密が描かれるのは主に終盤だが、とにかく怒涛の展開なので、60年前の駿少年のようにドキドキワクワクしながら一気に読み終えてしまうのがオススメだ。

 最後に、口絵ではさすがアニメ監督らしく、主人公・北川光雄とヒロイン・野末秋子の出会いのシーンを絵コンテで再現してあった。そして本編で秋子は「ホホホ」と笑うのだが、絵コンテには「クスクス」と書いてある。これは監督のヒロイン観そのもので、可憐なヒロインは決して「ホホホ」とは笑わないのだ。確かにこんな笑い方は、底意地の悪い公爵夫人のようなイメージがあるかもしれない。『カリオストロの城』のヒロイン・クラリスが「ホホホ」なんて笑おうものなら、千年の恋も醒めてしまいそうな気がするから不思議である。

文=木谷誠(Office Ti+)