SMAP・中居正広の生き方を社会学者が分析――実は読書家で、MC進出も長期計画に基づく戦略!?

芸能

公開日:2015/8/23

MCが上手くて、踊りも上手で、野球が好きで、ヤンキー体質で、自らも認めるオンチで……。

 中居正広という人間に世間が抱くパブリックイメージは以上のようなものだろう。国民的アイドル・SMAPの一員である彼の人柄は“特に知ろうとしないでも誰もが知っているもの”と認識されていて、それ故に深く掘り下げられる機会は少なかったと思う。

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 だからこそ、『中居正広という生き方』(太田省一/青弓社)を読んで、「自分はこんなにも中居クンのことを知らなかったのか……」と驚いてしまった。

 例えば第一章のタイトルは「中居正広と本」。ファンの間では彼が読書家というのは有名な話で、過去のインタビューでは好きな作家は歌野晶午や松本清張などを挙げている。ラジオ番組やインタビューで本の話題が出ることもあり、そこではミステリー小説のほか『生きながら火に焼かれて』(スアド:著、松本百合子:訳/ヴィレッジブックス)などのノンフィクションを挙げることもあったそうだ。

 また、「年に3冊に及ぶ手書きのノートを付けている」「19歳の頃に憧れの人物に挙げたのがチャップリンだった」「“芸能界でジャニーズなのにおしゃべりがいちばんできるようになる”という理想を昔から持っており、MC進出は長期計画に基づくものだった」なんていう情報も、多くの人には意外なものだろう。

 明るい雰囲気や軽妙なトークさばきから、“軽いキャラクター”として見られがちな彼だが、実は努力家であり勉強家であり、仕事に対してとても真摯な人間なのだ。芸能界であれだけ多くの仕事をしているのだから、考えてみれば当たり前のことなのだが、そんな当たり前のことに気付かせてくれるだけでも、本書は読む価値のある一冊だ。

 また著書の太田氏は『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などの著書のある社会学者。膨大な参考資料をもとに綴られる文章では、中居クンの個人史や人柄が、SMAPという集団や社会との関係で分析されていくのが面白い。

 少年野球で1番サードを務めていた中居クンが、小4の頃に「自分がピッチャーになったら、このチームは強くないからそれはやめたほうがいい」と考えるようになった……という話は、一つのエピソードとして面白いが、著者はそこに「野球を通じて自尊心よりもチームを優先する考え方を身につけていた」「そんな中居正広をリーダーとするSMAPだからこそ、デビュー次の苦境を乗り越えられたのだろう」と分析を加える。またその中居クンの考え方は、彼の愛読書・野村克也『野村ノート』の“弱者の戦法”とも繋がっていると続ける。

 また中居クンのヤンキー体質は、「ヤンキー独特のスタイルが進駐軍アメリカ兵の遊び着スタイルに対する憧れから始まったという説」を足がかりに、アメリカ軍関係の仕事で戦後に来日したジャニー喜多川と接続される。そのジャニー喜多川がジャニーズ事務所を始めるきっかけになったミュージカル映画『ウエスト・サイド物語』は、中居くんが憧れるマイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオのモチーフで……というように、点と点が線になっていく話しぶりはとてもスリリングだ。

 そのほか『湘南爆走族』といった漫画から、政治家の田中角栄まで名前の上がる本書は、中居正広の人物論でありながら、中居正広を起点とした時代論や社会論として読める面白さもある。それでいて、国民的アイドルが題材なだけあり、小難しさは一切感じない。ジャニーズファンにも、読書好きにも、普段は本を読まないテレビっ子にも、安心して勧められる一冊だ。

文=古澤誠一郎