日本初の「メカニックデザイナー」大河原邦男が今熱い!―ガンダムを描いた男のデザイン哲学

マンガ

公開日:2015/9/6

重厚さと対極の“軽み”が「大河原デザイン」を生み出す

 大河原氏のデザインをビジュアル中心にまとめた『大河原邦男Walker [メカニックデザインの鉄人]』は、これまでの作品歴と同年に起こった出来事を年表にまとめた「大河原邦男ヒストリー」や、『月刊ガンダムエース』の人気コーナーである大河原氏の自宅工房での作業と作品を紹介する「大河原ファクトリー」、『機動戦士ガンダム』のモビルスーツを描くイラスト「原点継承・MSV編」、そして数々の作品の設定画や玩具として発売された商品なども紹介している。その冒頭のインタビューで、大河原氏は「職人」とはどういう存在なのかを端的に話している。

「どんなオファーにも対応できるのが究極の職人――それを目指して、私も日々コツコツとやっているだけなんですよ」
(『大河原邦男Walker [メカニックデザインの鉄人]』より)

 そしてアニメでのメカニックデザインについて、『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』で一緒に仕事をした高橋良輔監督との対談でこんなことを指摘している。

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 デザインというものは時間をかければかけるほど洗練されて完成していくものですが、この仕事の場合それをやっている時間はないんですよ。アーティストだったらそうするんでしょうけど、私の仕事は「監督から求められた多くの課題に対して、どれだけ近い答えを出せるか」という勝負ですから。だから1つのデザインを少しずつブラッシュアップしていく作業は、いらないのだと思います。
(『大河原邦男Walker [メカニックデザインの鉄人]大河原邦男×高橋良輔より)

 来た仕事を拒まず、きっちりと予定を立て、締め切り前には必ず作品を完成させているという大河原氏。今回様々なインタビューを読んだが、「あくまでも職人」という揺るぎないスタンス、すべての人を喜ばせようとする姿勢、そして知識と経験がありながら傲慢にならず、多くの人の意見から学んで蓄積されていくアイデアをデザインに落とし込む柔軟性と発想力といったことが、40年以上も第一線で活躍している理由だと感じた。鉄を感じさせるネジやリベットが好きという大河原氏のデザインの重厚さとは対極にある、こうしたある種の“軽み”が「大河原デザイン」を生み出しているといえるだろう。

 そして大河原氏は図録のインタビューで、ファンにこんなメッセージを贈っている。

 本来の英語表記なら「メカニカルデザイン」が正しいそうですが、最初にクレジットいただいた「メカニックデザイン」という肩書きを死ぬまで通そうと思っています。偶然巡り合った仕事を一つの職業として成立させる意味では、自分には60歳までは仕事を続けようという使命感がありました。そして60歳を過ぎて職業として成立させた今、もしオファーがあればどこにでも出掛けようと思っています。それは国内だけに留まらず、アジアやヨーロッパ、イタリア、フランスなど、日本のアニメを評価してくれるファンがいるところならどこへでも。生涯現役で仕事をさせてくれた方々に何らかの恩返しをしたいですね。人生に影響を与えた人への責任もあるので、死ぬまで情報を発信したいと考えています。
(「メカニックデザイナー大河原邦男展」図録 インタビューより)

「メカニックデザイナー大河原邦男展」には外国からの観光客も多く訪れており、アジアからのファンがとても多かった。特に『機動戦士ガンダム』の設定画やラストシューティングなどの原画を食い入る様に見ていたのが印象に残っている。そして2016年春には大河原氏の出身地である東京都稲城市のJR南武線稲城長沼駅の高架下に「ガンダム」と「シャア専用ザク」の2体(全高約4メートル)の立像がお目見えする予定だ。メカニックデザイナー大河原邦男ブームは、まだまだ続きそうだ。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)