実践本『完全女装マニュアル』を片手に、三十路男性ライターがメイクに初挑戦してみた

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公開日:2015/10/10

『完全女装マニュアル』(りえ坊、花森 実咲/三和出版)
『完全女装マニュアル』(りえ坊、花森 実咲/三和出版)

 近年、趣味として女装をする「女装子」「オトコノ娘」の話題が、たびたび取り上げられる。試しにAmazonで「女装」と調べてみると、総合文芸誌『ユリイカ』(青土社)の9月号で「男の娘−“かわいい”ボクたちの現在−」と題する特集が組まれていたり、ジャーナリストとして名を馳せたドイツ人男性のルポ『女装して、一年間暮らしてみました』(サンマーク出版)が注目されたりと、女装への興味や関心も尽きない。

 ただ、興味はあれどなかなか女装へ踏み出す勇気がない。とはいえ、日常での新たな刺激を求めているという男性たちに、紹介したい1冊がある。“自室系オトコノ娘”に向けた実践本『完全女装マニュアル』(りえ坊、花森 実咲/三和出版)である。けっして瞬間だけの一過性ではなく、真摯により“きれいに”そしてより“かわいく”魅せたいと願う人たちに向けた1冊だが、同書を企画した三和出版の遠藤さんにお話を伺った。

男性が女装への一歩を踏み出すために。読者から“自撮り”による嬉しい反響も

 アダルト向け女装系雑誌も手がける中、読者から「“首下女装”(メイクをせず衣服だけの女装)をされる方々から『プロにメイクして撮影してもらいたい』という要望が寄せられていました」と話す遠藤さん。「女装される方は以前からいらっしゃいましたが、現在のように“女装子”として脚光を浴びるようになったのをきっかけに、プロのメイク技術を参考に、“清楚系”“ドール系”など、なりたい女の子のタイプ別に役立てられるような1冊を企画しました」と出版の背景を語る。

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 同書のターゲットは「潜在的な女装願望」を持った男性だという。「女装に興味があっても踏み出せず、化粧品や衣装をどう手に入れればよいか分からない。そんな方々の参考書になればと願いました」と同書への思いを、遠藤さんは語る。さらに、出版後には「実際に『本を見ながらメイクしてみました』というコメントと共に、初めての女装を“自撮り”した写真も送られてくるのが嬉しいですね」と、その反響も話していた。

 実際、同書はメイク術などの実践的な方法はもちろん、女装へ挑戦するための心得やより女の子らしくなるための振る舞いなども優しく語りかけるように解説してくれる。当初はその内容と遠藤さんのコメントのみで記事をまとめる予定だったが、それだけを伝えるにはあまりにも惜しい……。そこで、女装への入り口でもある“メイク”に、思い切ってゼロから挑戦してみた。

初めて訪れたメイク道具の売り場。男ひとりで気恥ずかしさを感じる……

 実は以前、1度だけ女装したことがある。元・美容部員の女性に完璧に仕上げていただき、女子高生の制服を着たときに、ちょっぴり普段の自分とは異なる感情が芽生えた経験もあった。とはいえ、今回は道具を揃えるところから。メイクの「メ」の字も分からない中、まずは、100円均一ショップにある売り場へと足を運んだ。

 ずらりと並んだ道具の数々。女装する以前に「女性は普段からこんなにもたくさんのメイク道具に囲まれているのか」と驚かされた。女性たちに囲まれる中、どこからともなく「お前はいったい何のためにこの場所にいるのか?」という声も聞こえてきた気もしたが、時折「頼まれて買いに来ているんですよ」と誰にも届かぬアピールのため、スマホを眺めるフリをしながら無事にお会計を済ませた。

    今回のメイクで使用した道具一式。
    一部、見当たらなかったものは妻のモノを拝借した

いよいよメイクへ挑む。アイメイクは予想以上に怖いと知る

 さて、ようやくメイク開始。パターンごとのメイク術が紹介された同書から、ひとまず「ビューティ系ギャルメイク」を選んでみた。これまでは風呂上がりの保湿すらしたこともなかったのだが、直前にきっちりと洗顔をして、ヒリヒリするほど、いつもより入念にヒゲを剃った。

 化粧水をコットンに含ませ、叩くように皮膚をケアしていく。そして、化粧下地とファンデーションを兼用したクリームを、なでるように染み込ませていった。本来であればヒゲを剃った部分などを隠すためにコンシーラーも必要となるが、今回は、下地を作り上げるまでで済ませることにした。

    鏡を見ながらであっても、明かりの入る角度によっては塗りムラが残るので入念に

 続いて、表情を決める目のまわりに取り掛かる。まず、理想的なまゆ毛を作るために毛のすき間を埋めるようにアイブロウを施す。同書では「細眉」の仕上げ方が解説されていたものの、今回は、流行りの太眉に挑戦しようと思い、素のままで、ブラウンのアイブロウを乗せてみた。

 そして、目力を決めるアイメイクへいよいよ挑戦。アイラインを引くところから始めてみたが、これが予想以上に怖い……。鉛筆型のアイライナーを使って、目のきわをまずふちどる。ペン先が目玉に刺さりそうな感覚に怯えながら、ヒヤヒヤしつつも何とか無事に済ませて、まぶたへアイシャドウを重ねていく。そして、ビューラーとマスカラを使い、まつ毛を整えれば完成する。

    アイラインを引くときは、指でまぶたを引っ張りつつ進めていくとやりやすい。

 最後に、唇の輪郭に合わせて口紅を塗り、グロスを乗せればひとまず完成。口紅は初めこそみ出してしまったりと苦戦したものの、筆を使って輪郭に沿って丁寧に進めれば、次第に慣れてくる。

いよいよ初めてのメイクが完成。できばえはいかに…?

    三和出版の遠藤さんからは「アイプチで二重まぶたにして“つけま”で目元をバッチリ盛ると、より美しく変身できると思います」というアドバイスを、後日頂いた

 やはりというべきか、なかなか難しい。上手くいかずにやり直したりと、振り返れば1時間以上かかったものの、何とか自分なりに初めてのメイクを終えた。率直な感想として、正直にいえば残念……。どうも野暮ったくなってしまい、まゆ毛も思った以上に太く、目のクマやヒゲを剃ったあとなども、もっと完璧に隠したいという感情も残った。

 ただ、少しずつ変化していく自分の表情が不思議で、自然といつもとは違う自分になれるような気もした。きっと、慣れていけばスムーズにできるようになるし、ウイッグを付けてみたり、女性らしい衣装を身にまとったりすれば、自分自身の違った一面にも出会えるのだろう。

 鬱屈した日常に、何か新しい刺激が欲しい。変身願望とはそもそも誰もが持っているようにも見えるが、『完全女装マニュアル』を手に、新たな一歩を踏み出してみるのもまた一興である。

取材・文・構成=カネコシュウヘイ