落ち込んでいる時に明るい曲を聴くのは逆効果? 音楽に支配される人間の意識

暮らし

2015/11/16


『心を動かす音の心理学 ―行動を支配する音楽の力』(齋藤 寛:著/ヤマハミュージックメディア)

 なんとなく居心地のよいお店と、そうでないお店。その違いはどこから生まれるのだろうか。もしかしたらそれは、「音楽の力」によって意図的にもたらされたものかもしれない。リラックスやストレス解消…と、目的は様々でも、私たちは日々音楽の力によって励まされ、癒されている。このことからも、音楽に力があることは感覚的にも理解することができる。しかし、音楽のもつ力とは具体的にどう説明できるのだろうか。

 今回紹介する『心を動かす音の心理学 ―行動を支配する音楽の力』(齋藤 寛:著/ヤマハミュージックメディア)の著者である齋藤 寛氏が、本書の中でそれを解説している。

 齋藤氏は、空間に流れる音楽を「音環境」として研究し、コンサルティングする音環境コンサルタントだ。音楽による行動心理学の観点から、私たち消費者の行動を分析し、その空間において最も効果的なBGMをコンサルティングすることで、隠れたブランディング構築へのアプローチを行っている。

 たとえば、飲食店での話を例に考えてみたい。齋藤氏によると、飲食店でのBGMの効果には、お店のイメージを音楽によって決定する「イメージ誘導効果」や、体感騒音を軽減し、自然な空間を演出する「マスキング効果」、不安を和らげたり、リラックスしたりできる「感情誘導効果」、テンポやジャンルなどによって人の具体的な行動が変わるという「行動誘導効果」などがあるという。

 BGMの効果には、お店のイメージづくりだけではなく、キッチンや他のお客さんの声などを意識せずリラックスできるようにしたり、ときにはそのお店の雰囲気にそぐわない(迷惑な)お客さんを撃退したりという効果もあるのだという。私たちの行動は音楽による影響を受けていることがわかる。しかし、私たちは普段、そうした音楽の効果を細かく意識したりはしない。それはBGMのはたらきが、内装のデザインや食器へのこだわりがもたらす雰囲気などを含めた、お店のトータルのバランスを整えるための「空気を埋めるはたらき」だからである。それは、たとえばお店に対して「なんとなく」居心地がいいと感じるように、この「なんとなく」の部分に重要な影響力を与えている証拠でもある。お店などで流す音楽に悩んだときには、空気を埋めるという意識をもって選曲すると、トータルでのバランスがよくなって居心地のよさにつながるのだ。

 もうひとつ、面白い音楽の原理を例に挙げるならば、「同質の原理」というものがある。たとえば、すごく落ち込んでいるときに「明るい気分にならなくては!」と思い、明るいポップな音楽を聴く人がいるが、齋藤氏によれば、これは逆効果なのだという。聴覚は感情に直結していることから、音や音楽からの感情を共有しようとする。しかし、自分の状態と、共有する感情とのギャップの差が大きければ大きいほど、その現実をより悲観してしまうかもれない。この同質の原理の特徴を逆に利用して、まずは感情や気分を落ち着かせるためにも自分の状態にあった音楽を聴き、「共感」して安心感を得ることが必要だ。そうしたあとに、自分の感情を引っ張ってくれるような音楽を聴くのが効果的なのだという。こうした音楽の原理を知っていると、感情のコントロールなどに音楽を上手く取り入れる方法がわかるようになる。

 このように、生活の中で音楽を取り入れ、それを楽しむ私たちは、音楽を利用するその一方で無意識のうちに音楽に行動を支配されているのかもしれない。音楽は、モルヒネの6倍の鎮静効果があるといった研究結果も出ており、音楽の効果はそうした科学的根拠にも裏付けされるようになった。そうした音楽の効果は、音楽療法で治療として利用されたり、マーケティング戦略の一環として使われたりするようになった。

 普段無意識のうちに触れている音楽の効果を改めて知ると、音楽との付き合い方や、意識の仕方が変わる。生活の中に取り入れて楽しむための音楽と、戦略として利用する音楽、それぞれの性質や効果を知ることができる、興味深い1冊だ。

文=松尾果歩