ワーグナーは人の妻を寝取った究極の「オレ様」男? 知られざる大作曲家の素顔

社会

公開日:2015/11/20


『クラシック・ゴシップ!』(上原章江/ヤマハミュージックメディア)

 最近テレビでよく見かけるのが、クラシック音楽の作曲家に関する逸話や「意外な素顔」の特別番組。そこで語られるのは偉大な作曲家がいかにすごかったか、変わり者だったか、どういう生活を送っていたか、という雑学に近い内容が多いように思うが、本書は少し趣向が違う。

クラシック・ゴシップ!』(上原章江/ヤマハミュージックメディア)は、芸術家としては優れていたかもしれないが、男としてはどうだったのか? という視点から作曲家たちを解説している一風変わった一冊だ。

 男としてというのは、つまり女性なら「異性として」ということである。

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 結婚したいタイプか、それとも彼氏にしたいか、はたまた愛人になりたいタイプかなどなど、女子トークのようなノリで作曲家たちのおもしろいエピソードを読むことが出来る。

 クラシック音楽に詳しくない人でも知っているであろう、J.S.バッハ(1685~1750)は、著者いわく、「定年まで働き続けたサラリーマン&マイホームパパ」とのこと。バッハの生きた時代は、音楽=芸術家ではなく、職人という位置付けだった。そのためバッハはドイツ各地の教会や宮廷に勤め、20人の子供を育てあげた、「現代の家庭を大事にする親父様とまったく変わらない」サラリーマンパパだった。

 だが、バッハはおそらく「私と仕事とどっちが大切なの?」なんて奥さんから言われるような男でもなかった。愛妻のために楽譜帳(練習曲集)を贈るなど、夫婦仲はとても良かったといわれている。

 よく働く上に、奥さんへの愛情を表すことも忘れない。まさに結婚するなら、バッハが一番かもしれない。

 一方で、夫にはしたくないが、メロドラマのような激しい恋愛をしたいなら、ワーグナー(1813~1883)がいいかもしれない。ワーグナーは「世界は私の必要を満たす義務がある」と言ってのけるような超オレ様男。自分の意志を決して曲げず、欲しい物は他人の妻でも奪う。お金を湯水のように使い、自分は数多くの人妻に手を出すくせに、女性には自分への一心な献身を求めた。

 自分を金銭的に支援してくれているパトロンの妻に手を出すこと2回、「恩を仇で返す」ことが得意技のワーグナーは友人の妻まで寝取っている。その年の差はなんと24歳というから驚きだ。ワーグナーは自分の娘でもおかしくない女性に手を出している。

 だが裏を返せば、そんな年齢差があっても気にならないほど、女性にとってワーグナーは魅力的な男性だったのかもしれない。イケメンというわけではなかったのに、そんなに何度も人妻と恋人関係になれるとは、ある意味その「オレ様ぶり」が魅力的だったのだろうか。

「ちょっと危険な恋をしたい」
「オレ様男に振り回されて、燃えるような恋がしたい」

 そういう願望のあった人妻にウケたのかもしれない。……もし自分がワーグナーの奥さんだったら、たまったものじゃないが。よってワーグナーは一緒に人生を歩みたい男ではないが、愛人にしたい男性と言えるだろう。

 彼氏にしたいのは、やはりピアノのプリンス・ショパン(1810~1849)だろう。

 彼は繊細で病弱。39歳という若さでこの世を去るが、そのはかなさと貴族的な雰囲気を持つショパンは、社交界のアイドルだった。

 彼が愛したのは、サンドという女性作家。男装をしたり、男性のペンネームで小説を書くなど、自立したカッコいい女性だったサンド(現代の女性で言えば、天海祐希のようなイメージだろう)は、ショパンとは正反対のタイプだった。だがサンドは、そんなショパンを自分の息子のように、献身的に愛したという。

 ショパンは才能に満ちあふれてはいるが、それ故に子供のようなところがあり、母性本能をくすぐるような男性だったに違いない。

 しかし、2人の関係は長続きしなかった。サンドが「尽くし過ぎた」と言っても過言ではないだろう。男女の関係から遠くなってしまった2人は最終的に別れてしまい、ショパンは失意の中、一人亡くなってしまった。

 彼氏なら、自分に甘えてくる姿も「かわいい」と思えるが、結婚したら(ショパンとサンドは正式には夫婦でなかったが)、一家の長として、しっかりとしてほしいと思う。サンドもそういう気持ちだったのかもしれない。

 他にも有名作曲家のおもしろゴシップが満載の本書。話のネタにもなること間違いなし。一度手に取ってみてはいかがだろうか。

文=雨野裾