元日テレキャスター・丸岡いずみ「誰にでも好かれようと思わない方が楽」―丸岡流世渡り術とは?【独占インタビュー】
更新日:2016/1/15
人間関係に悩む人が多い時代、元日テレキャスターの丸岡いずみさんが、さまざまなタイプの人との会話を円滑にする交渉術を伝授する『ひとたらし』(主婦と生活社)を出版した。「ひとたらし=まったくの他人から信頼を得た情報を引き出すのに長けた人(司馬遼太郎『新史 太閤記』より)」——彼女がこれまでのキャリアの中で培ってきたマル秘テクの世渡り術は、就活生やビジネスマン、普通の主婦にも役立つヒントも多い。今回は著者の丸岡さんに、いまどきの難しい人間関係の乗り切り方について、さらなるアドバイスをいただいた。
●セオリーを生んだのは、失敗の数々
――『ひとたらし』興味深く読みました。「怒っている相手」や「決めつけてくる相手」など、ちょっと困った相手への具体的な対処法が書かれていて、これは役に立ちそうです。
丸岡いずみさん(以下、丸岡) ありがとうございます。この本に書いてあることは、私自身が失敗を重ねて、そのあとに勝ち取ってきたものばかりなんです。一度読んでいただくと、おそらくご自分ならどうしたらいいのかというのが、オリジナルに出来てくると思うので、それで工夫していってもらえれば理想的ですね。もちろん学生さんとか、まだ何もわからない場合もあるでしょうから、そういう方には私の失敗で学んだことを試してもらってもいいのかなと。実際、新卒で入った北海道文化放送では、ほんとに逸話に残るような大きな失敗ばかりしていて、「ビリアナ」というレッテルを貼られていましたから。
――料理番組で火事を起こしたり(注:『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社)に掲載されているエピソード)、かなり大胆な失敗だったようですね(笑)。そうした失敗はどう受け止めていたんですか?
丸岡 ずっとダメな人間だと落ち込んでました。ただ、最初はへこむんですけど、寝たら忘れるような性格だったのと、周りのサポートもあってなんとかなって…。なので読者の方にも、最初からできるということではなくて、やっていくうちにできるようになる、という感じで受け止めてもらえたらと思います。
――ただ、本に書かれている交渉術を読んでいると、ご自身でもかなり勉強するなど努力をされているようにも思いました。
丸岡 マスコミのお仕事をしていると、「日本テレビの丸岡いずみです」というだけで様々な著名人に会える機会も多いですから、事前に情報を調べたり、著書を読んだりと最低限のことは当然やっていました。とはいえ最初のうちはお会いするのにお腹が痛くなるくらいでしたが、それが段々、また会いたくなったり、むこうからもごはんに誘われたりとリターンがくるようになって、「相手の懐に入っていけたのかな?」と思えるようになっていった感じですね。あとは、日テレに転職してからまわりとの差を実感して、できることはしていかないと生き残れないと危機感を持ったことで、大学院に行ったというのもありました。
――そのガッツ、なかなかマネできないかも…。
丸岡 当時は上昇志向もそれなりにあったかもしれません。とにかく走っていましたから。
●初対面、ニガテな相手、ママ友…どうつきあう?
――そんな丸岡さんでも、最初は緊張されたというのは、ちょっと安心です。本の中では初対面の相手とのやりとりを就職・転職活動の自己PRを例に解説されていましたが、たとえば事前知識もないような相手と対する場合には、何をきっかけにされていますか?
丸岡 人ってなんだかんだいって見た目から入るじゃないですか。私も人間はある程度、見た目は大切と思っているので、「清潔感がある」とか「センスがいい」とか服装をきっかけに人柄をイメージして、「素敵ですね」「お似合いですね」と会話を始める場合もあります。
――見た目で判断するというより、きっかけにするんですね。では、「ニガテかも…」という相手と話を続けなければいけない時は?
丸岡 仕事の場合は、仕事だからと割り切るのが大事ですね。そういう時は、多かれ少なかれ、相手も同じように感じているものですから、そんなに話も盛り上がらなくていいんだと思います。上司だと厄介ですが、上司も部下を選べないし部下も上司も選べないわけで。私の場合、「私も歯車なら、上司も歯車」と、合わない上司もうまく利用させていただこうという感じで気楽に考えるようにしていました。
――プライベートな人間関係、たとえば「ママ友」とか、ヘタに割り切れない場合もありますが…。
丸岡 確かにメールで揉めたりとか、ニュースにもなっていますよね。ただ、そこまで入り込むからそういうことが起きてしまうようにも思います。ある程度、シャットアウトするというか、私にはここまでしか関わらないでという意思表示をしたらいいのかな、と。出し方は難しいですが、土足でどこまでも入り込む人というのはどこにでもいますから、自分で防御しないと人間疲れしてしまう時代だと思います。
――ただ、壁を作ると「感じ悪い」と思われるのが困ることもあるんですよね…。
丸岡 たとえばキャスターとかアナウンサーとかやっていると、嫉妬のない世界では正直生きられません。かつては自分を嫌う人にもわかってもらいたいと思う事もありましたが、実際にはなかなか難しいし、そちらを意識しすぎて本来やらなきゃいけないことを見失ったりすることもある。だから私は、ある時からそういうのをやめて、「誰にでも好かれないといけないという呪縛から解き放たれたほうが、楽に生きられる」と思うようなりました。すごく好いてくれる人に好かれ続けるように健全な方向に集中力をもっていくようにしたんです。今、フリーで活動していますが、私のことをすごく嫌いという方もいると思いますが、それはそれでいいと思っています。
――そういう開き直りは大事ですね。でも、悪口は気になりませんか?
丸岡 一時、週刊誌のカメラマンにしつこく追い回されて、人の目が常に気になっていた時期があったんです。実は、日テレを休職してうつ病で実家に帰ったんですが、なんと帰ったときにもカメラマンが追いかけてきたんですよね。でも、それで結構ふっきれてしまって、「そうか、うつになっても、追っかけられるんだ」って。そこから、「メディアの中で生きるなら仕方ない。そういうふうに思う人もいるんだな」って思うようになったんです。結局、「気にする」ということは、その人たちの思惑にまんまとのせられているわけですよね。それってすごくソンじゃないですか。だったらステージを変えて、そこにとどまらないようにするのが必要なんじゃないかと思います。
●ルービックキューブ型八方美人のススメ
――今、うつというお話が出ましたが、丸岡さんはうつの経験を正直に本に書いていらっしゃいますよね(注:『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社))。この本を書く上で、その経験は役に立ちましたか?
丸岡 そうですね。走っていた時代には、自分を客観視する時間というのが物理的になかったんですが、一度うつになって立ち止まれたことで、そういう時間が否応無くできました。それがこの本にもつながっていると思います。当時は局を背負うサラリーマンという重圧もあったので、弱音を吐いたりできませんでしたが、今、こうして自分をふりかえって、発見もありますが、失敗も開示できて楽になったのはあります。
――読者にとっても、トップランナーのように走ってきた人が、実は私こうなのって話してくれることに、すごくほっとするように思います。
丸岡 それはうれしいですね。ぜひ、前の本と2冊合わせて読んでください(笑)!
――今回、本の帯に「八方美人でいいんです」とありますが、これまでのお話だと誰にでもいい顔をしよう的な理解とはニュアンスが違いますよね?
丸岡 そうですね。私にとっての八方美人とは「相手のチャンネルをあわせていく」ということで、この本では「ルービックキューブ」という言い方をしています。「誰に対しても同じ顔を向けましょう」ということではなくて、その人その人に違う顔をみせて、それでスムーズにコミュニケーションが出来たらいいんじゃないかと。
――なるほど自分の軸はぶらさずに相手を尊重してあわせていくわけですね。確かに、その方がちゃっかり自分の陣地にもっていけそうです。
丸岡 そういうイメージですね。今でこそセオリーとして切り札になっていますが、社員として仕事をしている当時はまだわかっていなかった面もありますが。ただ、ある程度、人間関係は自覚的に合理的に考えていかないと、自分のやりたいことや目標とする生き方に到達できないこともあると思うんです。たとえば後輩ができる年齢になってくると、仕事を円滑にすすめるためにある程度「見極める作業」をしていかないと間に合わないことがあります。ドライかもしれませんが、後輩を見極めて伸びしろがある子の方に手をかけていくとか。自分にとって負なものを、わざわざ背負い込むのは時間がもったいないでしょう? みんな一緒にがんばりましょうという時代でもないですし、そこは割り切りも必要だと思っているんです。
――なるほど。あらためて丸岡さんって、すごく合理的で客観的だと実感します!
丸岡 そうなのかもしれませんね。でもそうしなかったら、今までの私はなかったかもしれない。でも、後輩には「火中のクリを拾いに行くタイプ」とも言われたんですよ。
――それって、「目標をコレと決めたらリスクも厭わず合理的につきすすむ」ってことだと思いますよ。でも、そうはいっても、やっぱり人生には無駄な人間関係もついてきてしまったりしませんか?
丸岡 そうなんですよね。私自身、割り切ってすすんでいかないと当時の自分はなかったと思う反面、そういう無駄をあまりにもはしょりすぎたから、うつになったような面もあるとも思っているんです。ただ今の時代、常に連絡をとれる友だちがいないと不安とか、「(人と)つながらなければならない」と思う人が多いようですが、私には長くつきあう人は数人でいいし、自分が心地よくない人との人間関係を中途半端に続ける必要はないのは確か。だから今は、一見無駄そうだなと思っても、一度はそこのステージに立って景色をながめみて、やっぱり自分にはあわないなと思ったら即帰る、みたいな感じかな(笑)。
――なるほどー。クールな強さは必要ですが、丸岡さんの割り切り方、今の時代を乗り切る心構えに大事かも。本と一緒にヒントにしたいと思います。ありがとうございました!
■『ひとたらし』
著:丸岡 いずみ
価格:1200円(+税)
発売日:2015年12月4日(金)
出版社:主婦と生活社
取材・文=荒井理恵