特殊な性欲大集合! あなたの常識を覆す全294種の快楽百科

暮らし

2015/12/10


『[図説]“特殊性欲”大百科 “ビザール”の生態学』(アニエス・ジアール:著、山本規雄:訳/作品社)

 2015年8月16日、神戸で深夜3時から道路の側溝(幅約55×深さ約60センチ、侵入口となった蓋は幅約55×約35センチという狭さ!)に潜り込み、蓋の隙間から道行く女性のスカートの中を覗いたり、スマートフォンで撮影したりしていた男が捕まった。逮捕は午前8時頃というからなんと約5時間も溝の中へ潜んでいたわけだ。しかもこの男は再犯で、前回捕まった2年前の警察の取り調べで「生まれ変わったら道になりたい」と供述したという報道もあった。

 なぜこれほどまでに特殊な性欲が生まれるのかと気になっていたところ、『[図説]“特殊性欲”大百科 “ビザール”の生態学』(アニエス・ジアール:著、山本規雄:訳/作品社)という本を見つけた。本書にはコスプレから手足切断といった過激なものまで全294種の特殊な性欲について、写真や図説、愛好家の証言や膨大な資料、長年にわたる研究から解説されている。著者であるフランス人ジャーナリストのアニエス・ジアール氏は欧米や日本の性文化、サブカルチャーに造詣が深く、フランスの日刊紙『リベラシオン』や、日本の『S&Mスナイパー』にも記事を寄稿しており、本書はそうしたこれまでの研究を一冊にまとめたものだ。

 7つのチャプターがある本書は、まず「ビザール・クラシック」と題した古典的な特殊性欲の紹介で幕を開ける。女性に踏まれたいというクラッシュ、パンティの隠し撮り、モデルを用意してパンチラをひたすら撮影するパンティ・ピーク、濡れてダメになった靴や履き古した靴、女性が靴を半分脱ぎ足先でプラプラするダングリングに興奮する人などが紹介される。続く「第2の皮膚」というチャプターでは全身タイツやラップフィルム、塩ビやラバー、タイヤチューブ・フェチ(表紙の女性の衣装はタイヤチューブ製)が登場、包帯やギプスなどに執心する「メディカル・セックス」、武器を持つ女性に憧れたり機械と性交したりする「愛と戦争」、くすぐりやビショビショドロドロ状態に興奮するウェット&メッシーといった「神経性官能」、赤ちゃんプレイや犬人間を飼育する「ごっこプレイ」、そして最後は地球外生命体による拉致体験や超巨大女性とのプレイ等をひたすら妄想する「非リアル系妄想」で締めくくられる。

 様々な性癖を持つ人たちのたくさんの証言を読むと、どの人も幼少期に体験したことにルーツがあるようだ。例えば膨らんだ風船が破裂しそうなことに勃起してしまうという男性は「私が生まれて初めてオーガズムを感じたのは誕生日会の風船をお腹に押しつけたりして遊んでいたときだったんです。それ以来、やめられません」と語っている。まず強烈な体験があり、それが性的興奮だとわからないまま刷り込まれ、繰り返すことでやがて特殊性欲として結実していく、というプロセスがあるようだ。側溝に入り込んだ男にも何かしらの体験があり、反復してその思いを強化していったのだろうと思うが、法に触れる性犯罪は絶対にやってはいけない、ということは念押ししておきたい。本書に掲載されている特殊性欲のほとんどは法に触れることではないし、誰かに迷惑をかけることなく楽しんでいる人が多い。

 他人の性癖というのはわかろうと思って理解できるものではないし、私にはわからないから異常だと一方的に決めつけてはいけない。自分にはわからないけどそういうこともある、と受け入れるしかないのだ。何が普通で何が特殊なのかは人によって、地域によって、そして時代によって変わっていくものであるし、誰もがマイノリティとなりうる部分を持っていることは忘れないでいただきたい。

 ちなみに私がこれまで聞いた話の中で一番特殊だと思ったのは「ダウンジャケット・フェチ」だ。裸にダウンジャケットだけを着て交わるのだという(冬はいいけど夏はどうするんだろう?)。世の中には自分の想像もつかないことやものに興奮する人がたくさんいるのだ。本書の帯には「世界で最も“特殊なSEX”とは何か?」とあるが、それは読む人が決めてほしい。この本に登場する好事家に聞けば「自分が一番」と言って譲らないだろうし、もしかしたらあなたの行為が一番特殊かもしれない可能性だってあるのだから。

文=成田全(ナリタタモツ)