ブームで終わらせない ラグビー日本代表を導いた知将ジョーンズのココが凄い

スポーツ

2015/12/12


『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話』(生島淳/文藝春秋)

 2015年秋、ワールドカップのイングランド大会で「世紀の番狂わせ」と世界を驚かせたラグビー日本代表。チームを率いたヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏は、オーストラリア人の父親と日系人の母親から生まれた、いわゆるクォーターである。日本にルーツを持つことから、「恩返しができれば」と考えていたという。

 言うまでもなく、ジョーンズ氏が日本代表の快進撃を導いたのは、日本にゆかりが深く、日本的側面を持っていたからではない。世界トップレベルのコーチングの技術と知識、そして新しい試みに挑戦する意気があったからに他ならない。

 『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話』(文藝春秋)を読むと、同氏がいかに思慮深く、モダンでグローバルな考えを併せ持つプロフェッショナルかがわかる。聞き手で著者は、スポーツジャーナリストとして知られる生島 淳氏。テレビやラジオなどでMCも務める生島氏が、ジョーンズ氏の考えや魅力をたっぷり聞き出し、伝えている。

「世界一苛酷な練習量」の裏側にあるもの。凄いのはそう言わしめたこと

 日本では、選手たちも証言していた「世界一苛酷な練習量」が話題になった。

 だが本書を読むと、そんなことは一言も書かれていない。ジョーンズ氏は、ハードワークの重要性を説いているが、それはトップレベルのチームなら当たり前のことと捉えているのだ。

世界的に見て、成功を収めているチームは例外なく、『ハードワーク』を厭わないチームばかりです。しかし、コーチとしてはハードな中にも楽しめる要素を入れてあげなければならない。なぜなら、楽しむ要素があれば、選手はより懸命に、ハードな練習に取り組めるからです。

 加えてジョーンズ氏は、チームの規律を重んじながらも、選手それぞれの考えも取り入れ、ディスカッションをして柔軟に対応することが必要だと語る。そのほうが効率も上がり、選手たちの参加意識も高まるからだ。

 「世界一苛酷な練習量」というフレーズのインパクトが強いせいか、相当につらく厳しい4年間が想像されるが、それだけではなく楽しみや柔軟性といった豊かな側面が見えてくる。ジョーンズ氏は指摘する。

「日本はいまだに精神主義的な色彩が強いと感じます。どれだけつらい練習や痛みに耐えられるかといった誤った考え方がまかり通っている。これはたぶん『武士道』の名残りなのでしょう。そういう精神主義でクラブを運営していったとしても、いいラグビーチームになるとは到底思えません」

 日本では否定的な部分を探して成長ルートを導き出す教育の影響があるのだと。そうではなく、同氏は選手に自分の能力への気づき「セルフ・アウェアネス」を促した。自己肯定からチームの強みを意識するのだ。

 思えば、「世界一」という表現は、英語では文字どおりだけでなく、「最高に」といった程度の最上級を意味するときにも多用する。ラグビー日本代表が歴史を作ったのは、練習量が絶対的に「世界一」だったからではなく、選手たちが相対的に「世界一」と自信をもって臨んだからなのかもしれない。

ジョーンズ氏の言う「アート」。訳すならば「創意に富んだわざ」?

 選手たちが「世界一」と自負する練習では、ジャージーにGPSをつけて個々の移動距離や速度を数値化したり、ドローンを使って上空から動きを俯瞰して分析したり、と最新テクノロジーが駆使されたという。

 そして何よりも工夫が見られたのが、選手一人ひとりへのアプローチ。それぞれ何が必要なのか。どうコミュニケーションを取るべきか。これこそがコーチングの「アート」なのだとジョーンズ氏は力説している。つまり、コーチとしての腕の見せどころなのだと。

 「art(アート)」というと、まず芸術にまつわる意味が思い浮かぶが、英語では、「技術やわざ、技巧を必要とするもの」という意味で使われることも多い。また、nature(自然)の対義語でもあり、by artは「狡猾な」と訳され、術策に長けていることも意味する。同氏の言うコーチングのアートは、「創意に富んだわざ」というところだろうか。

 ジョーンズ氏は、読書家で勤勉。ラグビーのほか野球、サッカー、アメフト、バスケ、テニスなど、様々なスポーツのトップレベルを観察し、いいと思うものを取り入れる。独自の手法を試すには、選手の理解が必要だが、それについても「セールスマンとなっていかに売り込むか(選手を納得させるか)」と表現する。まるでスーパービジネスマンのようでもあるのだ。

 そんなジョーンズ氏だからこそ、島国の閉鎖的な日本の文化に、グローバルでモダンな風を吹き込むことができたのだろう。同氏は、次はイングランド代表のヘッドコーチとして手腕を振るう。同じ島国の特徴を捉え、改革の余地に気づいているジョーンズ氏が今度はどんな「革命」を起こすのか。そして日本代表は開眼した“ジャパンウェイ”でさらなる高みに到達するのか。同氏のコーチングは、これからも旋風を巻き起こしそうだ。

文=松山ようこ