背筋の凍る遭難体験を記述した『ドキュメント 道迷い遭難』から、全登山者が学ぶべき2つの鉄則とは?

暮らし

2015/12/29


『ドキュメント 道迷い遭難』(羽根田治/山と渓谷社)

 「山ガール」なんて言葉も広まり、多くの人が気軽に登山に挑戦するようになった昨今。そこに付きまとうのが道迷い遭難のリスクである。

 ……なんて教科書的なことを言われても、「まあ初心者向けの山をたまに登るくらいの自分には関係ないっしょ」と思うような人が大半だろう。筆者も実際そんな感じだったのだが、文庫版『ドキュメント 道迷い遭難』(羽根田 治/山と渓谷社)を読んで、正直背筋が凍ってしまった。

 本書は、7件の道迷い遭難の事例を取り上げたもの。背筋が凍った理由は、それぞれの事例が、命からがら生還した遭難事故の当事者への聞き取りをもとに、とても生々しく記述されているからだ。

 例えば52歳男性が、南アルプス・荒川三山で遭難したケース。

 雨が降り、「早く降りたい」という思いがあった下山の最中、男性は雨水が流れる水路をルートと勘違いして、そちらに歩を進める。一瞬「あれ、おかしいな?」と思うが、雨の中で地図を出すのも億劫で、そのまま進んでしまう。

 しばらく後に「あ、これは完全に道を間違ったな」と気づくが、「たぶん小屋までもうすぐだろう」とさらに沢を下りる男性。その後は増水した滝に直面。その脇を降りようとした結果、登りも降りもできない場所に着いてしまい、強引に滝壺に飛び降りて片足を骨折。そして食料も尽き、斜面をよじ登る時に荷物も落とし、万事休す……。

 というところで運良くヘリに発見され、結果的には助かったのだが、読んでいる最中は息が止まるほど怖かった。

 なお、このケースの男性は3000メートル級の山での遭難だったが、本書では300メートル程度の低山でベテランの登山者が迷ったケースも紹介されている。どんな山でも、どんなベテランでも、やはり遭難のリスクは付きもので、そのすぐ近くには「死」があるのだ。

 では、どうすれば道迷い遭難を避けられるのかというと、著者が繰り返すのは「おかしいなと思ったら引き返せ」「道に迷ったら沢を降りるな。尾根に上がれ」というたった2つの鉄則。とても簡単なことのようだが、山ではなかなかそれを実践できないそう。

 まず、迷った時点でパニックに陥る人が多くいる。また、冷静なつもりの人でも、来た道を引き返す面倒臭さを前にすると、「このまま行けばどこかに出るだろう」と都合のいい考えを採用してしまいがちだそう。そして、やっと「あ、迷っちゃった」と気づいた頃には、すでに手遅れになっているのだ……!

 だからこそ、道迷い遭難は今も起こり続けているのだが、少なくとも本書を読んで背筋の凍るような事例を追体験すれば、似た状況が近づいた時に、少しは冷静な判断を下せるようになるはずだ。

 また、命からがら助かった本書の当事者たちが、どんな装備だったのか。何を持っているべきだったのか。また、どんな技術があれば遭難のリスクを減らせるのか……という点も、本書を通読すれば学ぶことができる。やはり「失敗は最良の教師」なのである。

文=古澤誠一郎