姜尚中の「容姿の悩み」「愛憎と憎しみ」に関する直球メッセージが沁みる!

暮らし

2016/1/19

 落ち着いた知的な語り口調で、『朝まで生テレビ』をはじめ、メディア露出も多い姜尚中氏。自らの生い立ちにも関わる在日問題や、日本とアジア(特に韓国)との関係についての発言がまず頭に浮かぶ、「硬派な政治学者」のイメージが強いが、その最新作『君に伝えたいこと 15歳の人生レッスン』(自由国民社)は副題にもあるように、なんと、中学から高校への過渡期にある、いわゆるヤングアダルト世代に向けての「生き方指南書」だ。あの姜尚中氏が思春期世代に向けて一体何を語るのだろう?

 まず感じるのは圧倒的な読みやすさだ。対象が中高生、それも多分、普段あまり本を読んでいないような子供たちを対象にしているせいか、字は大きいし、語り口調そのままのような文体で、すらすら読めてしまう。内容は、というと、これがなかなか深いのだ。確かに始まりは思春期によくある悩み、例えば「自己意識」の芽生えによる周囲とのいざこざや、「自己愛」と「自己否定感」のせめぎ合いによるイライラについて、異性との関係や失恋など、大人が読むとちょっと懐かしくなる内容が並ぶ。けれどその対処法には世代関係なくハッとさせられる事しきりだ。

 例えば容姿の悩み。著者は言う。

「身体という“器”は…ただ受容するしかないものなんだね、この意味で、人間はもともと自由ではないんだよ」

 だから、容姿は自分の力ではどうにもならない、自分のせいではないと割り切ってしまえば、少しは心が楽になるのでは、と。この発想の転換は容姿に限らず、自分にはないものを持っている人を羨んで、劣等感を抱いている人間すべてに対する処方箋となりそうだ。

 愛情と憎しみについては、

愛そうが憎もうが、意識の流れがせき止められ、だれかにしがみついている状態は同じ。

 つまりどちらも「こだわり」だ、と断ずる。必ずいつか意識は流れていく、つまり愛も憎しみもいつかは薄れていくのだから、一時のこだわりに執着して自分を見失ってはいけない…。思わずニヤリとしてしまうが、男女間のことで悩んでいる人にとっては、耳の痛い言葉だろう。

 他にも

自己愛が強すぎる人って、実は、自分が無条件に肯定された経験がない場合が多い

(ある体験が)

成功なのかどうかは、君自身が決めていいんだ。そしてどんな人にも『成功体験』はある

これがなければ、あれがある、あれがなくても、これがある

何かを選択するということは、何かを失うこと。Aを選んだ人は、Bを手に入れることはできない。逆に言えば、Aを選ばなければ、Bが手に入るんだ

「こうなってしまったから、もうやり直しはきかない」と考えるのは間違っている

 …などなど、含蓄のある言葉がたっぷりちりばめられていて、読み進めるうちにだんだん心が軽くなり、不思議と元気になってくる。将来起こる「未知なもの」「未知な自分」との出会い、そのワクワク感を繰り返し語り、どんなきつい状況でも、「必ず僥倖は訪れる」と信じて、子供から大人への「丸太の道」を一歩ずつ前へ進もう…。どの時代より自由だけれど、ある意味過酷な状況にある現代の若者たちを、その悩みからなんとかして少しでも解放してあげたい、そんな著者の祈りにも似た強い思いが感じられて、親世代の私にはグッときてしまった。

 章を追うごとに悩みがどんどん普遍的なものになっていくのも興味深い。インターネットによる知識と本当に「知る」ことの違いから始まって、生と死、破壊衝動や残酷さはなぜ生まれるのか、なぜ人は人を殺してはいけないのか、なぜ学ぶのか、生きるとはどういうことか…。そうこれは、人間の根源的な問いに対する著者の思索を、わかりやすく親しみやすく綴った「哲学書」でもあるのだ。ヤングアダルト世代はもちろん、大人にとっても示唆に富んだ言葉が詰まったこの一冊、手元に置いて何度も読み返したい。

文=yuyakana