「神」と崇められた男・田代まさしが語る、薬物と刑務所の怖~い話

社会

2016/2/2


『マーシーの薬物リハビリ日記』(田代まさし/泰文堂)

 薬物依存症患者・田代まさし。若い世代の方はご存じないかもしれませんが、彼は「マーシー」の愛称で知られたタレントでした。歌手活動の傍ら、類稀なるギャグセンスでバラエティ番組に引っ張りだこ。幾つものCMに出演し、タレントショップを営む実業家としても活躍していました。

 しかし2000年、盗撮事件を起こしたことを機に芸能活動を停止。復帰会見に挑むも、その場で放ったギャグが問題視され、本格的なカムバックを逃してしまいました。その後、軽犯罪法違反容疑で現行犯逮捕。直後に覚醒剤の所持や使用が明らかになると、事務所からも解雇され、テレビ画面からは姿を消していきました。一度は釈放され、芸能関係の仕事に復帰するも、度重なる薬物使用により、逮捕、また逮捕…。連行時のやせ細った姿の写真を見て、驚いた記憶があるという方も多いでしょう。

 そんな彼が、自身の経験について語った本が、『マーシーの薬物リハビリ日記』(田代まさし/泰文堂)です。現在は「ダルク(DARC)」という薬物依存症の回復施設でスタッフをしているマーシー。同書では、違法薬物の恐ろしさや、薬物に依存してしまうしくみ等について、生々しく語っています。

「トリップするためじゃなくちゃんとするために覚醒剤を使っちゃう 真面目な人ほど覚醒剤にハマりやすいなんていわれるのはこういうことなんですよね」

「覚醒剤が切れると何にも出来なくなっちゃうから 覚醒剤のことしか考えられなくなるし 目の前に覚醒剤があったらもう何にも考えられなくなっちゃう コレが渇望現象というヤツです」

 同書における薬物の危険性に関する記述の詳しさは、彼がいかに真剣に、自身の薬物依存症と向き合ってきたかを物語っています。難しくてヘビーな内容も、作画・北村ヂン氏の可愛らしいイラストのおかげで、とっつきやすく仕上がっており、楽しく読み進めることができます。

 刑務所での生活事情についても、つぶさに語っているこの本。所内限定のFM放送や、細部にわたる不思議な規則、果ては塀の中での性処理事情等々…。そして、留置場や拘置所といった特殊な環境下でも、「長年のクセで」面白いことをさがしてしまったというマーシー。刑務所内でおこなわれたというビデオ観賞会では、そこで流れた『ショーシャンクの空に』に「脱獄する話じゃん!」とツッコみ、所内で開かれた運動会の綱引きでは、「お縄になったヤツらが綱を引きあってるよ……」とポツリ。共にダルクに居たヤクザの親分とは、一緒に薬物をやめ続けようと誓ったけれど、指切りをしようとしたら彼は既に小指を詰めていて…。ギャグの神様と呼ばれた彼だからこそ目を付けられた小ネタもちりばめられており、純粋に読み物としても楽しめます。

 一方で、マーシーは同書において、自らの暗い部分についても明らかにしています。高校時代はシンナーを吸うような不良だったこと。実はデビューしてすぐに、覚醒剤の使用を経験したこと。そして、拘置所の中で東日本大震災を経験し、建物がメチャクチャになれば、それに乗じて釈放してもらえるのではないかと考えてしまったこと――。言わずにおけばそれで済んだであろう恥部までも描いたのは、すべてを正直に話すことで、自身が語る「薬物の恐ろしさ」を読者に信用してもらいたいという、強い思いがあってのことではないでしょうか。

この本を読んでもらい、同じ「薬物依存症」の苦しみと戦っている人たちの励みになり、これから「薬物」に手を出してしまいそうになっている人たちの歯止めになってくれたら嬉しいです。

 同書のあとがきでそう語るマーシー。人生のどん底を見た彼だからこそ書けたこの「日記」、一読の価値アリです。

文=神田はるよ