ラノベに満足できなくなった男達へ―― 狂気にも似たピュアな探究心が、世界を、魔法を変える!

文芸・カルチャー

2016/2/5


『インスタント・マギ』(小船井 充(ufotable):イラスト/KADOKAWA)

テーマは、格好いい大人の生き様――。新創刊を迎えた小説レーベル「ノベルゼロ」が送り出すものは、いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマだ。大人が惚れる大人の主人公を通して、物語に触れる喜びを追求していく。本コーナーでは、そんな「ノベルゼロ」から選りすぐりの1冊をご紹介する。今回取り上げるのは、青木潤太朗著『インスタント・マギ』(小船井 充(ufotable):イラスト/KADOKAWA)だ。

「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」とはよくいったものだが、『インスタント・マギ』の主人公、セイジこと茶海星从郎(サミセイジュウロウ)が発明した「インスタント・マギ(IM)」もまた充分に発達した科学である。

IMとは視覚情報で脳を手軽に「改造」し、科学的に未解明な分野での物理現象を引き起こす能力のこと。簡単に言えば、スマホに入った電子ドラッグともいえる動画を見るだけで、一定時間超能力者になれる=魔法が使えるようになるのだ。といっても、IMの魔法は人の心を読んだり、空を自由に飛び回ったりするようなファンタジー色溢れる魔法ではない。コイン(以外も可能)を高速回転させる「スピンコイン」や落下速度を緩やかにする「フワフワ」のような、物理現象にちょっとだけ干渉する地味なものばかりだ。

ところが人の心を読み、空を飛ぶような本物の魔法使いにとってみれば、いつか自分たちの存在意義を否定することになる可能性を秘めたIMは、驚異的な(そして脅威の)発明だった。かくしてセイジは、魔法を守ろうとする保守派の魔法使い「魔道士」たちと、魔法の発展のために科学技術と共存する革新的な魔法使い「錬金術師」たちの抗争のただ中におかれることになる。

魔法を使った派手なバトルに、IMと科学的知識を使った頭脳戦、そしてセイジを巡る駆け引きなど、読みどころ満載の本書だが、その中心に位置するセイジという人物はなかなかにエキセントリックだ。一見、温和で理知的、親切で常識的な男だが、科学に身を捧げるその姿はどこか狂気すら感じられるほど。絶体絶命の状況におかれても自分の運命より相手が使う魔法の原理のほうが気になってしまうし、なんなら自分の命を捨ててでもIMを守ろうとする。それがセイジの危うさではあるが、飽くなき探究心に従い迷いなく突き進む姿は、とてもピュアで格好いい。

そして本書は、セイジの物語でありつつ、彼の護衛で同棲することになった錬金術師側の魔法使いの少女、ゼラ・レーベルウィングが、恋に魔法に真剣勝負を挑む物語でもある。

ゼラはフィンランド人の父を持つエルフのように美しい魔法使いで、箒を操ることから『箒使い』と呼ばれている。箒に乗って大空を舞い、「箒のファンネル」で戦う上位の魔法使いだが、その素顔はいわゆる普通の女子高生。学校では恋バナに花を咲かせ、人並みに恋をして。エッチな知識を仕入れれば、小悪魔的なアプローチでオクテな大学院生を誘惑する。とにかくセイジのことが好きで好きで仕方ないのだが、一体何が彼女の恋心を突き動かすのか。その答えは終盤まで伏せられているが、ここにもうまく“魔法”が絡んでいるところが、なんともニクい。

セイジやゼラ以外にも、魅力的な魔法使いが多数登場する『インスタント・マギ』。いや、魅力的でない登場人物がいないといってもいい。それもそのはず、この世界での魔法は犠牲の上に成り立ち、魔法使いは苦しみや痛みを乗り越えた者たちばかり。だから、なんの犠牲もなく誰でもインスタントに魔法を使えるIMに、彼らは様々な想いを抱く。どの魔法使いも誇りを持ってセイジの前に現れる。ここで描かれるのは単なる科学と魔法の対立ではない。人としての意志と意志のぶつかり合いなのだ。

文=岩倉大輔