ジブリ最新作『レッド・タートル』がもっと楽しみになる! 「スタジオジブリ」の27年間を知るアニメーターしか知らないエピソード

映画

公開日:2016/2/6


『エンピツ戦記 – 誰も知らなかったスタジオジブリ』(舘野仁美:著、平林享子:構成/中央公論新社)

 昨年12月、スタジオジブリが、2016年9月に新作『レッド・タートル THE RED TURTLE』を全国公開することを発表した。まだ詳細までは分かっておらず、続報を楽しみにしているジブリファンも多いのではないだろうか?

 そんなジブリファンにぜひ読んでほしいのが、ジブリのスタッフしか知らないエピソードが満載の『エンピツ戦記 – 誰も知らなかったスタジオジブリ』(舘野仁美:著、平林享子:構成/中央公論新社)。27年間スタジオジブリでアニメーターとして働いた著者・舘野仁美氏の回顧録だ。

 舘野氏は、高校生のときに『未来少年コナン』を見て「心の奥底の欲望がすべてアニメーションになっているような、画面の中のキャラクターに自分がすっかり憑依してしまうような体験」をしたことをキッカケに、アニメーターになりたいという夢を抱いたという。専門学校を卒業し、アニメーターになった彼女は、ひょんなことから『となりのトトロ』の動画チェックを担当することに。動画チェックとは、動画マン(動画担当者)が作った動画の仕上がりをチェックし、よくないところがあれば修正指示をしたり自身で直したりする、いわば動画の品質管理をする仕事。監督からの指示と作画担当の意見が異なった場合は、板挟み状態になり、トラブルも多々あったと著者は振り返る。

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 たとえば、初めてジブリ作品に関わったという『となりのトトロ』での動画チェック時のこと。

「半目を描くときはまぶた線をつけなさい(そうしないと目の描写がバチバチしてしまう)」

 と宮崎駿監督から注意された彼女。しかし、まぶたの線はもともとは描かれていたにもかかわらず 、作画担当の指示でわざわざ消したものであった。このような、各部門のアニメーターによって指示が矛盾していた際のトラブル対処も動画チェックの役回りなのだ。結局、そのときは監督の指示に従いまぶた線を入れて対応したそう。また、舘野氏 の席は宮崎監督の近くだったこともあり、息つく暇もないのは想像に難くなく、“エンピツ戦記”というタイトルもピッタリ。

 宮崎氏は2013年に行った引退会見で“僕は文化人にはなりたくない、町工場の親父だ”と述べていたが、舘野氏は彼のことを「監督である前に芸術家」だったと回顧録に記している。

 彼の感性が、ある意味“普通ではない”ことがよく分かる話を紹介しよう。ジブリの社員旅行に行った際、空から舞い降りてきて翼をたたんだ鳥に向かい、宮崎氏は「おまえ、飛び方間違ってるよ」と本物の鳥に向かって、自分の理想の飛び方を要求していたというのだ……! 「現実の向こうにある理想のリアル」を追求する宮崎氏ならではのエピソードだ。

 さらにジブリファンならば知っておくべき情報も! 宮崎氏や、『火垂るの墓』などの監督・高畑勲氏の戦友と呼ばれる存在、色彩設計・保田道世氏はジブリ作品の色を決めてきた人。ジブリの和むような緑色、美しい青色、鮮やかな黄色……。やわらかく優しい“ジブリ色”の生みの親だ。彼女の、細部まで手抜きをせず理想の色を追求する仕事への姿勢を、舘野氏はジブリのベテランたちすべてに共通する部分だと感じたそうだ。

 そのほかにも、『千と千尋の神隠し』の描写に込められた現代人への警告や、ジブリを通して困難に負けずに舘野氏が成長していく姿も克明につづられており、見どころは満載。ジブリファンはもちろん、アニメーターに興味がある人にもおすすめしたい一冊だ。

文=高橋明日香(清談社)