頂点から急転直下、下町の義理人情が悪を斬る!爽快痛快金融ミステリー『トーキョー下町ゴールドクラッシュ!』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

古来より、金は天下の回りもの。金と塵は積もるほど汚い。宵越しの金は持たぬのが江戸っ子の心意気だ。だが、いつの時代も金に汚い悪党はいるものだ。『トウキョー下町ゴールドクラッシュ!』(角埜杞真/メディアワークス文庫)は、敏腕トレーダー・橘立花が金融業界に蔓延る、そんな悪党どもを叩っ斬る金融ミステリーだ。

主人公の橘立花は、東京・丸の内にオフィスを構える外資系証券会社L&Lに務めるトレーダー。株取引によって億単位の利益を稼ぐ、金融業界では伝説とまでいわれる凄腕だ。そんな彼女が、身に覚えのない不正取引を行ったとして突然職場を解雇される。さらには顧客から損害賠償として百億円の訴訟を起こされかけてしまう。何者かによって罠に嵌められたことを悟った立花は、冤罪を晴らすためにトレーダーとしての知識と経験を頼りに真犯人を探しはじめる。

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何億もの大金を動かすエリートから一転して破産寸前の無職になってしまったら、普通の人であればショックで落ち込みそうなものだが、この物語の主人公の立花は、一味違う。自分に罪をなすりつけた真犯人への怒りに燃え、すぐに状況を打開するプランを考えはじめる。頭の回転の速さに加えて、逆境を跳ねのける不屈の精神力はただ者ではない。

持ち前の負けん気で、関係者に体当たりの聞き込みを重ねる。それも決して下手にでることなく、手がかりを引き出していく丁々発止のやり取りが見物だ。壁に行き詰っても突破口をこじ開けていく行動力が、とても痛快なのだ。会社に見捨てられ、それまでの同僚や友人たちが離れていっても、自分の道を見失わず、まっすぐに突き進んでいく、そんなたくましい生き方にあこがれる。

汚名返上を決意する立花は、ひょんなことからイケメンだがダメ人間なフリーター・永山一樹と出会い、彼を通じて日本橋人形町の江戸っ子たちと知り合う。立花の境遇に同情した彼らは、勝手にお節介を焼きはじめる。個人タクシーの運転手の宮原は、電話一本でどこでも駆けつける。洋食店・紫苑亭を営む近藤夫婦からは温かい食事をふるまわれ、下宿に匿われる。お店の常連客の三馬鹿トリオのオヤジさんたちには、ときに事件解決のヒントをもらう。

いつも助手のように立花に付き従う脳天気な一樹や、江戸っ子たちの活気あふれる掛け合いが、立花の抱える問題を笑い飛ばす。それまで立花が付き合ってきた、ライバルよりも利益を上げることに腐心する金融業界のエリートたちとは正反対の、貧乏でも助け合いを大切にする人情味あふれる下町の住人たちとの交流が和む。華やかできらびやかに見えても裏ではドロドロとした欲望が渦巻く金融街と、雑多で古びた風情ながらも人々の心が温かい下町との対比が絶妙だ。

次第に騒動の真相に迫っていく立花は、巨額の金の流れを追いかけて、株取引の裏で暗躍する悪の陰謀を暴き出していく。

果たして、立花は真犯人を探しだし、自分にかけられた汚名を晴らして、100億円の損害請求から逃れられるのか。

本作は、第22回電撃大賞で応募総数4580作品の中から選ばれた大賞作。経済用語などやや難解なところがあるが、内容は勧善懲悪のエンタメ活劇になっている。『トウキョー下町ゴールドクラッシュ!』は、なにかとストレスの多い社会に疲れてしまった人に活力を与えてくれる一冊だ。

文=愛咲優詩