こんな宮部みゆき読んだことない!10年前の深夜番組『最後の晩餐』が執筆のきっかけに!

文芸・カルチャー

2016/4/6

脱力系ファンタジー「ここはボツコニアン」シリーズ文庫版刊行スタート!!

多彩かつ多作で知られる日本を代表するエンターテイメント作家、「宮部みゆき」の名を聞くと、まずどんな作品を思い浮かべるだろうか。

『理由』、『模倣犯』をはじめとする現代ミステリー? 『ブレイブ・ストーリー』や『英雄の書』にみる冒険ファンタジー? 『蒲生邸事件』や『ドリームバスター』のようなSF小説? 昨年、映画公開された『ソロモンの偽証』が記憶に新しい人もいれば、『ぼんくら』や『あかんべえ』を真っ先に思い浮かべる時代小説好きもいるかもしれない。

しかし今回紹介する作品は、「ゲーム女」を自称する宮部さんが「ずうっと書きたかった」という、史上初の“笑える宮部みゆきワールド”が炸裂する物語なのだ。

タイトルはその名も『ここはボツコニアン』。“ボツコニアン”というのは、ボツネタが集まってできた、できそこないの世界のこと。その世界をよりよい世界に創り変えるため、「長靴の戦士」として選ばれた少年ピノと少女ピピが主人公の物語である。

「もしかして児童書?」と思うようなタイトルと設定だが、全5巻におよぶこのシリーズは、“宮部みゆきとは何者か?”を知ることができる仕掛けや遊び心にあふれた、ニューファンタジーと言っていいだろう。

たとえば、本の最初に記された次のような注意事項からも、この作品に対する宮部さんの思い入れが感じられる。

~使用上のご注意~(作者からのお願い)
・本作品は、確実にこの世界ではない世界を舞台にしていますが、ほぼ確実に正統派のハイ・ファンタジーにはなりません。ご了承ください。
・テレビゲームがお好きな方には副作用(動悸・悪心・目眩・発作的憤激等)が発症する場合があるかもしれません。了承ください。
・本体を水に濡らさないでください。
・プレイ時間1時間ごとに、10~15分程度の休憩をとる必要はありません。
・本作は完全なフィクションです。あまり深くお考えにならないことをお勧めいたします。
……etc

宮部さんがこのシリーズを書こうと思ったきっかけは、10年ほど前までさかのぼる。関西で放映されていた読売テレビの深夜番組『最後の晩餐』で、作家が書いた小説の冒頭の一行をもとに出演者が即興の小説をつくる「白い本」という人気コーナーがあった。その依頼を受けた宮部さんが書いた書き出しの一行は、「————朝、目を覚ますと、枕元に赤いゴム長靴が」という一文。そのときの出演者、中島らもさん、笑福亭鶴瓶さん、浜村淳さん、キダ・タローさんたちは、ものすごく苦労して小説をつくった。そのことが嬉しかった宮部さんは、「いつか自分も、あの書き出しの一行からはじまる小説を書こう」とずっと心に決めていたのである。

そうして書き上げた物語は、朝目覚めたピノが枕元の赤いゴム長靴を見つけるシーンからはじまる。そのゴム長と一緒に床下に落ちたピノの前に現れたのは、黒いゴム長靴を持つピピ。2人は別々に育てられたが、一緒にいると強大な力を発揮する双子なのだ。「長靴の戦士」に選ばれた2人に与えられた使命は、ボツコニアンの成り立ちを変えて、本物の世界にすること。そんな大役にオロオロする2人にお供するのは“世界のトリセツ(取扱説明書)”を自負する花の植木鉢……。

「植木鉢と冒険?」とおどろくのはまだ早い。というのもこの物語、途中で作者の宮部さんがツッコんだりボケたり、自分の趣味嗜好を語ったりするものだから、そちらのほうに気をとられること必至なのである。作者から飛び出すネタも言わずと知れた映画や小説やゲームなど、知る人ぞ知るキーワード満載。一方で、物語は軽快でコミカルながらも壮大で深遠なテーマがベースになっているため、読む角度によって2倍も3倍も楽しめる。

2巻目以降は事件あり、三国志あり、ホラーあり、魔王ありで、ピノとピピの冒険と作者の暴走(!?)は果たしてどこへ向かうのか? いまだかつてないエンターテインメントの新方式、面白くて楽しい“宮部ワールド”をさっそく旅しよう。

『ここはボツコニアン 1』
宮部みゆき 集英社文庫 520円(税別)

「本物の世界から生まれ出るボツネタの掃き溜め、吹き溜まり、ゴミたちの集う夢の島」ボツコニアンをよりよい世界に創り変えるため、正と負の相反するエネルギーを持つ双子の長靴の戦士ピノとピピの冒険の旅が今はじまる————。作者もしょっちゅう出没する遊び心満載のストーリーとエッセイの見事な融合も楽しめる、宮部みゆきのニューファンタジーシリーズ。『ここはボツコニアン 2 魔王がいた街』は5月20日発売予定。以降隔月全5巻まで刊行。

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