鏡のような、ふたつの並行世界が存在する日本。娘・夏穂の身柄が拘束されていると知った宗一は…【宮部みゆき 色違いのトランプ】/はじめての③

直木賞作家4人と、“小説を音楽にするユニット”YOASOBIがコラボレーション! 島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都による短編小説集『はじめての』をYOASOBIが楽曲化し、「文学」「音楽」そして「映像」から物語世界をつくりあげていく話題のプロジェクト。企画テーマ「はじめて」をモチーフに書かれた珠玉のアンソロジー『はじめての』から、各話の冒頭部分を全4回連載でお届けします。第3回は、“はじめて容疑者になったときに読む物語”、宮部みゆき著「色違いのトランプ」をご紹介します。
その日、安永宗一は忙しかった。JR旧御茶ノ水駅近くの発掘現場で、重機の操縦ミスによる横転事故が発生し、ずっとその収拾にかかりきりだったのだ。指令車に置きっぱなしにしていた私物のスマートフォンをチェックしたのは、夕方五時をまわってからのことだった。 ざっと二十件ばかりの着信に驚かされた。全て瞳子からのもので、昼過ぎから断続的にかかってきている。宗一の妻はしっかり者で、よほどの非常事態が起こらない限り、仕事中の彼に連絡してくることはないのに。 慌ててかけ直してみたが、今度…