清野とおる、松岡茉優&伊藤沙莉に宣戦布告!? 「“やっぱマンガの方が面白いYONE~”と言ってもらえるように頑張りたい」【後編】

マンガ

更新日:2016/6/3

「さく男」のようにチーズが裂けたニオイを楽しむ清野氏

「さけるチーズ」を極限まで細く裂いて、裂けまくったチーズで顔を撫でて悦に浸る男。薄皮パン(チョコ)を丸ごと頬張って口の中でプレスし、パンの中からチョコが放出される瞬間を「至福です!!」と言う男……。

「日常生活の中で、別にこだわらなくてもいい事に敢えてこだわり、そこに自分だけの幸せを見いだしてコソコソと楽しんでいる輩」を取り上げる清野とおるのマンガ『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(講談社)。同作が題材のテレビドラマも放送中の今、その作品の誕生秘話や創作の裏側を、作者の清野とおるにインタビューした。

甘いものを食べる順番を間違うことは「殺し合い」

――マンガの中で、特に読者から好評だったのはどの回ですか?

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清野:まず、金麦のロング缶とポテトサラダを一緒に食べる『ポテトサラダの男』ですかね。普通にある食べ物の新しい楽しみ方を発見した……みたいな部分で面白がってもらえたのかなと。ツナ缶に大量のコショウとマヨネーズを投入する「ツナ缶の男」の食べ方も、同じような感じで反応が良かったです。意外と油っこさもなく、絶妙な美味しさでしたね。

至福を味わうまでのお作法

――どちらも真似したくなりますよね。「朝に家を出るとき、植え込みの中に自宅のカギを隠し、ドキドキを味わいながら帰りにカギを回収する」という「帰る男」の行動とかは、なかなか真似できないですけど(笑)。清野さんが実践してみて楽しかったものは何でしょうか?

清野:2巻の『薄皮パンの男』の“パンプレス”ですね。あれは幸せな感じでしたよ。あの食べ方をすると、薄皮パンがもはや違う食べ物になるんです。あと、薄皮パンの男に話を聞いて以来、食事どきに糖度を意識するようになりましたね。

――「アップルジュースを飲みながら薄皮パンを食べればいいじゃないですか」と言った清野さんに対し、薄皮パンの男は怪訝な表情で反論していましたよね(笑)。

清野:「彼らに殺し合いをさせるつもりですか?」と言っていましたね。「糖度の違うものを食べるとき、甘くないものから順に食べないと甘さが台無しになってしまう」と。だから、イチゴのショートケーキを食べるときも、必ず先にイチゴを食べてから、生クリーム本体部分を食べるようになりました。

――笑えるマンガでありながら、実は日常生活に役に立つ話もあると

清野:あと、このマンガに出てくるおこだわりは、おこだわり人に「楽しみ方」を教わったからこそ、楽しさを感じられた部分もあると思いますね。おこだわり人から何の説明も聞かず、このマンガと同じ食べ物を出されたら、そこまで楽しさを感じることができなかったかもしれないですし。

――確かに“おこだわり人のロジック込みで楽しむ”みたいな部分が、このマンガにはあるかもしれないですね。

清野:だから素直に洗脳されることが大事なんですよ。「聞いた話はすべて正解なんだ! その先に幸せがあるんだ!」という洗脳状態で試すと、それはもう至福です。一瞬でも疑ったらダメです!

食事制限や運動をしてまでツナ缶+マヨネーズを食べる男

――では、マンガに出てくるおこだわりで、日常的に清野さんも実践しているものはありますか?

清野:「さけるチーズ」をできるだけ細く裂いて食べる……という食べ方は、今でもよくやっていますね。筆状になるくらい細く裂いて、それをパックリ食べるとたまらない美味しさなんですよ。

――さすがに飲食店では出てこないメニューですし、これは自分で裂くしかないですもんね。

清野:それに人が裂いたものは食べたくないですよ。

――しかし、極限まで細かく裂いたのに、一気にバクっと食べちゃうって、無意味さが凄いですよね。あと、ツナ缶+マヨネーズのように、過度な摂取は体にあまり良くなさそうなものを食べちゃう背徳感も、「おこだわり」の楽しさの一つなのかと思いました。

清野:でも「ツナ缶の男」は、あの食べ方が体にワルイと、ある程度は分かっていて、いろいろな節制をしているみたいですよ。ツナ缶を食べる日が決まったら、食事をセーブして、ちょっとランニングもしたりして。

――そんな努力をしてまで、ツナ缶をあえて食べるというのも凄いです(笑)

清野:けっこう体も引き締まっている人なんですよ。電車に乗るときも必ず階段を昇るらしいですし。毎日の一歩一歩がツナ缶の道につながっているんです。

視聴者を「ふるい」にかけすぎてるドラマ(?)版『おこだわり』

――4月からテレビドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』が放送中ですが、マンガの方に何か反響はありましたか?

清野:『山田孝之の東京都北区赤羽』が放送されたときと同じで、今のところ特に何も感じないですね(笑)。今回は過度な期待はせず、いち視聴者としてドラマを楽しみながら、漫画のほうに全力投球しようと思っています。

――“フェイクドキュメンタリー”という変わった形式で、清野さんのマンガに出てきた「ポテトサラダの男」「帰る男」などは登場しつつも、ストーリーは違うものになっていますよね。

清野: 監督の松江(哲明)さんや脚本家の竹村さんを信頼しているので、「もう好きにやっちゃってください」という感じですね。ドラマのストーリーにも、口出しは一切していないです。

――特に2話の「帰る男」の途中からは原作とは全然違うストーリーが始まって、『一体何なんだろうこのドラマは……』と困惑しつつも楽しんで見てしまいました。

清野:1話目から視聴者をふるいに掛けて、2話目でさらにふるっちゃって、3話目まで付いてきてくれた人にはご褒美が待っていた……という感じでしたね。「こんなにふるいに掛けちゃって大丈夫なの?」と、見ているこっちもビックリしました(笑)。

――では、マンガの『おこだわり』は今後どのような作品にしていきたいですか?

清野:『東京都北区赤羽』のときもそうだったんですけど、ドラマ化をしてもらうと、ドラマの方に注目が集まって、マンガが追い抜かれちゃんですよ。『東京都北区赤羽』といえば山田孝之さんというイメージになり、今回の『おこだわり』も、松岡茉優さんと伊藤沙莉さんのイメージが強くなると思います。だから僕は抜かれた分は抜き返して、「やっぱマンガの方が面白いYONE~」と言ってもらえるように頑張って描き続けるだけですね。

哀愁が漂う(赤羽の某喫茶店にて)

取材・文=古澤誠一郎 写真=山本哲也

前編はこちら】『おこだわり』清野とおる「リアクションをどうするか」が一番の苦労!? 『ドラゴンボール』天津飯の技が影響したシーンも