アッパー? ダウナー? 鬼才はらだの描く陰と陽の新感覚BL『ネガ』&『ポジ』
公開日:2016/6/21
『ポジ』は、とにかくアホでエロでポジティブなストーリーを詰め込んだ短編集。表紙を開くと単行本書き下ろしのあらすじから始まる。その最初の一節がこれ。
「半端ない舌テクの持ち主だと巷を騒がせている通称救世主(メシア)」
その驚くべき舌テクから、不感症やインポで悩む人々に高額な治療費を請求するという始末。男女問わず片っ端から体の関係になる彼は、しかし“バリバリのタチ専”(注:セックスにおいてリードする側専門)。
しかし、そんな彼に突然魔の手が現れる。相談にきていた自称ED男に騙され、犯されてしまうのである。抵抗しつつも新しい快感に溺れかける彼と、そんな事態を招いた諸悪の根源の自称ED男、そして一連の黒幕。終始ふざけながらも、妙に疾走感のあるストーリー運びは、さすがはらだ先生である。「ポジ」では、そんなメシアシリーズの他 、老博士とアホ助手のエロティックテクノロジー開発の物語「宇宙のもずく」や、剃毛プレイをするカップルの「変愛 不毛変」など、終始アホエロ満載の濃密なストーリーが紡がれる。
一方で、はらだ節炸裂ダウナー系のネガティブストーリーを集約したのが『ネガ』だ。
いつも一緒にいた幼馴染3人組は、しかし一人の恋心が発覚することにより、中学卒業式の日を境に関係が壊れてしまう。
卒業式前日、男同士のアダルト動画を見せられ、幼馴染に「きもいよな」と言われる少年。その言葉が耳に残っていた彼は、卒業式後もう片方の幼馴染に告白された際に「ホモとかキモイ」と断ってしまう。本意ではなく断ってしまった少年、AVを見せて少年が断るように仕向けた幼馴染、「もしもあのときこうしていれば?」という後悔やむなしさがうずまく。
幼馴染3人のひりつく関係を描いた「後悔の海」と「スイメンカ」のほか、身体中にピアスを開ける
男性との恋愛を描く「ピアスホール」や、ニューエイジな渋谷区を舞台にした「リスタート」、女子視点から描いたBL「わたしたちはバイプレイヤー」など、救いがない抉るようなネガティブストーリーの数々。痛々しいのに目を離せずページをめくる手が止まらないのは、鬼才はらだ先生の手腕といったところだろうか。
どちらの短編集も、奇妙な読後感がある作品ばかりだ。明暗わかれるはらだワールドに、どっぷりと浸かってみてはいかがだろうか。
文=園田菜々