AVの絡みと好きな人とするセックスは何が違うのか?経験人数8000人のAV男優が追求する「幸せなセックス」

エンタメ

2016/7/11

 AV男優・森林原人(もりばやし・げんじん)37歳。中学受験で、麻布、栄光、ラサールなどの難関中学に全て合格し、筑波大学附属駒場中学(通称・筑駒)に進学したという華々しい経歴を持つ。東大合格があたりまえの環境にありながら、あり余る性欲に取り憑かれ勉学の道を挫折。爆発しそうな欲望に従ってエロの世界へと進み、現在は出演本数1万本、経験人数8000人のベテランAV男優だ。そんな森林氏がセックス漬けの毎日の中で、ふと「現場の“絡み”と、好きな人との“セックス”とは何が違うのか」という疑問を抱いた。『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論(講談社文庫)』(森林原人/講談社)は、彼が幸せなセックスとは何かを追求したエッセイだ。

スケベなだけではAV女優にはなれない

 森林氏がAV男優3年目を迎えたとき 、1人の新人女優と現場を共にする。AV出演2本目の彼女は、セックスが大好きで動きもエロい。AV女優としての素質は充分だ。しかし彼女は撮影終了後「なんで男優さんは終わるとすぐに離れちゃうんですか?」と言って泣いた。彼女は“絡み”ではなく“セックス”をしたかったのだ。スタッフからは、スケベだけどプロとしての“絡み”ができないからAV女優に向いていない と評価される。そのとき から、森林氏は内面的なところにある“セックス”と“絡み”の違いを意識するようになる。

本物の“まぐわい”を撮るAV監督・代々木忠

 AVには流れがある。前戯、挿入、体位替え、フィニッシュと監督が指示する通りの展開をこなし、さらに指定された時間ちょうどに収めるのがプロのAV男優だ。許される誤差は3分以内。現場の女優と男優は、個人的な快楽よりも「エロく見せる」ことに徹する。一方で、男女が本気で感じ合う“まぐわい”を追求している代々木忠監督の現場で、森林氏は“セックス”について学ぶことになる。

代々木さん曰く、元来、生まれてから死ぬまで孤独である人間は本能的に“人とつながりたい”という思いを持っています。本能とは、人間が本当にしたいことで、そこから好きという感情が生まれてきます。
相手のことを好きと感じている時、人はその相手と向き合いその人の痛みや喜びを察し、慈しみ、愛おしいと思っています。

 代々木監督の作品では、女優と男優がセックスに没頭することで何かが生まれ、観る者はそれに新たな感動を覚える。森林氏は、この現場でセックスと性表現の奥深さを知り、一生をかけてエロいことを真面目に、楽しく、どこまでも深く考え続けようと心に誓うのだった。

「満たされたい」承認欲求のその先に

 誰かに必要とされることは喜びだ。居場所がなく孤独に苛まれるとき、性の対象として求められることで自己肯定感を抱くことがある。逆に言えば、他者に選ばれなかったりヤリ捨てされたりすると、世界に拒絶されたと感じてしまう。本書の中で、承認欲求を満たすためにヤリマンになった女性について描かれている。彼女は数をこなして自己承認欲求を満たし、さらに肉体的快楽を体験し、SMの世界に触れて脳でイクことを知る。性の快楽をとことんまで突き詰め、最後には相手を無条件に愛することで得られる悦びにたどり着く。

 セックスはとても個人的なもの。しかも相手がいなくては成立しない。したくでもヤレないこともあるし、愛があってもしたくないこともある。性欲があってもなくても、誰もが一度はセックスについて考える。森林氏をはじめ、本書に登場する人物たちは、幸せなセックスについて1つの答えを獲得した。では、自分にとってセックスとは何か。本書は、それを考えるヒントを与えてくれるだろう。

文=松田美保