”鉄分”と”猫分”のバランスよい補給に。編集という名の”調合”の妙技『鉄道ねこ』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14


『鉄道ねこ』(石井理恵子、撮影:トム宮川コールトン、奥田達俊 /新紀元社)

冒頭から私事で大変恐縮ではありますが、先日、人間ドックを受診したんです。郵送された結果を見たところ、大方「A」だったものの、「D」の項目があったのであります。何かというと「血清鉄」が基準値を下回る、鉄分不足の貧血状態だったわけです。ということで、今回は鉄分を補うための一冊『鉄道ねこ』(石井理恵子、撮影:トム宮川コールトン、奥田達俊 /新紀元社)を紹介します。

日本各地でも猫駅長がたくさん登場していますが、『鉄道ねこ』の舞台は、いま全世界から注目をあび話題沸騰中の蒸気機関車発祥、かつ「保存鉄道」発祥の地でもある、イギリスです。保存鉄道とは、鉄道を動態保存するために、主に市民や市民団体によって運営されている鉄道です。廃止寸前だったタリスリン鉄道が、保存会によって買い取られ、1951年5月に再出発することになったのが、その始まり。ちなみにタリスリン鉄道が走るウェールズのグウィネズ州は、先日のEU離脱の是非を問う国民投票では残留派が58.1%でした。

タリスリン鉄道と同じような経緯で生まれた保存鉄道は数多あり、その古くからの駅には、「鉄道ねこ」がいるのだそうです。その理由は、本書にもこのように記されています。

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1800年代からの英国の鉄道駅には猫がいて、可愛いがられていたそうです。なぜなら、ネズミの害から駅を守っていたから。ネズミは鉄道の倉庫にある食糧だけでなく、鉄道施設の電線をかじるなどの被害を与えていて、ネズミ退治に猫はとても役立つ存在で鉄道員たちの仲間であり相棒でした。

整備員や駅員と仲良くじゃれ合ったり、煙室扉の前や線路の上を堂々と闊歩したり、ホームのベンチでシッポをピンと立てて威厳を漂わせたり。歴史ある駅に住まう猫たちの英姿を眺めていると、「駅の猫」というよりは「猫のいるところが駅」ではないかという錯覚まで覚えてしまいそうです。

本書のページを、ひとたび開くと止まらない感覚は、映画『新幹線大爆破』のひかり109号のようです。取材に基づく精緻な描写のなせる業でしょう。そしてもう一つの理由は、バランスなのではないかと思います。それは、鉄分だけ摂取しても吸収されにくく、いっしょにたんぱく質やビタミンCをバランスよく摂取する必要があるように、『鉄道ねこ』には鉄分と猫分がバランスよく配合されているのです。バランスを取るには編集の力が必要で、その裏には「本に載せられなかったたくさんの情報」があるわけです。鉄道一辺倒、猫一辺倒の処方とは一味違うことが本書の端々からうかがえます。

文=猫ジャーナル