落語家、プロレスラー“万年最下位争い”の「横浜ベイスターズ」に魅了される人々に、その理由を聞いた!

スポーツ

公開日:2016/7/24

断絶したように思えても、絆はまだ誰の中にも生き続けている。そして、そこに志さえあれば、世代を超えて技と心は受け継がれていく。『4522敗の記憶』

 野球というものを、ちゃんと見たことがない。横浜ベイスターズが“万年最下位争い”のチームだったということも知らなかった。それでも、ベイスターズ球団史『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(村瀬秀信/双葉文庫)を読んで心を揺さぶられたのは、ベイスターズを私自身と重ね合わせたからだ。失敗つづきの自分、人生の波が大きく先の読めない自分、人の期待に応えられない自分……。しかしこんな私にも、尚、愛をもって応援してくれる人たちがいる。決して、すべてが無駄ではなかったのだと、本書を読んで気がついた。

 大洋ホエールズ、横浜ベイスターズ、横浜DeNAベイスターズと、球団名を変えて尚、受け継がれてきた“技と心”。そこに魅了される2人に話を聞くことにした。落語家の入船亭扇里氏と、プロレスラーの佐々木貴氏(FREEDOMS代表)。本書の魅力とはなにか。なぜそんなにもベイスターズを愛するのか。

落語家・入船亭扇里

 サンキュータツオ氏いわく、「誤解を恐れず言えば、“つまらない”と“ちょっと面白い”のギリギリ」の落語家。ベタすぎて普通は怖くてできないオチにも、ニコニコしながら迷いなく向かっていく。それが不思議と、面白くてしかたない。ロックバンドが出演するライブハウスで、淡々と古典落語を披露するというニッチさは、どこかベイスターズと重なる部分 がある。そんな扇里師匠の思う、ベイスターズの魅力とは。

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――本書を読んで、いかがでしたか。

「神奈川県の出身で、子供の頃からプロ野球を見ていて一番疑問だったのが、なぜ大洋(ホエールズ)だけいつも弱いのか、ということなんです。巨人が強いのは分かる、他の球団も強いときが必ずある。でも大洋はいつも弱い(笑)。それがどうしてなんだろうというのが、子供ながらに疑問だったんです。その答えが、この本に全部書いてありました。経営戦略もない、運営方針も定まらないという状況がずっと続いていたことを、全部解き明かしてくれたんです。大洋漁業が大洋ホエールズを経営していたんですが、『本社からやってくる人はみんな漁師で、漁師気質が抜け切れていない』というのは、なるほどなと思いました」

――負け続けても応援するのはなぜでしょうか。

「負けてもいいっていうことはないんです。強くなってもらいたい。ただ、2000年代後半の一番弱いときを見ているので、それが当たり前の光景になってしまったのが、ファンも球団を甘やかしている要因だと思うんですけど」

――ベイスターズの魅力とは?

「ベイスターズは、大スターと呼ばれるような選手は出てきていないんですが、職人的な選手がやたら多いんです。そこはやはり、漁師気質なのか(笑)。そういう選手がつねにいるんですよ、だから魅力的なんですよね。僕が子供の頃は、高木豊、加藤博一、屋鋪要という、とても足の速い3人がいて、スーパーカートリオと呼ばれてリーグの盗塁王を争っていました。ピッチャーは遠藤一彦、齊藤明雄という、本当に職人みたいな2人が押さえている。98年に優勝したときは、そういう選手が一斉に全盛期を迎えたときだったんです。96年から2001年くらいまでは、ベイスターズは強かったんですよ。そんな選手たちが抜けていったあとも、やっぱり職人的な選手がポツポツと出てきては魅せてくれる。巨人に行った村田修一とか、ものすご く魅力的な選手なんですよね。そういう人たちが次々と外へ出ていっちゃうんですけど(笑)」

――ご自身とベイスターズを重ね合わせる部分はありますか。

「うーん……。重ね合わせないようにしています。弱いベイスターズと、大したことない自分。重ね合わせたくないです(笑)」

――文庫版には村田修一のインタビューが加筆されています。

「村田は2000年代後半の、一番弱かったベイスターズの中心の選手でした。それがFAで巨人に行ったとき、ファンは恨んだんですよね。球場でもずっとブーイングされて。今回、その村田の言葉を聞けたのが、本当によかったなと思います。村田には、いつか帰ってきてほしいです。どんな形でもいいから。他にも、ベイスターズが弱くなった原因として、谷繁元信が出ていったことが本に書かれていますが、谷繁は家を横浜に建てて、家族も横浜に住んでいるので、いつか指導者として帰ってきてくれると僕は信じています」

――ベイスターズに期待することは?

「いま残っている石川雄洋には、いい目を見させてあげたいなと思います。当人もすご く苦しんでいるんですよね、思うように活躍できないですし。ファンからも愛憎入り混じった野次が飛んだり……叩かれるときは徹底的に叩かれる選手なので、一度優勝させてあげたい。石川と、ピッチャーの山口俊がいるうちに、優勝してほしいなぁというのは、ずっと思っていますね。今年はセリーグの中ですご くいい試合ができていて、4月はボロボロでしたけど、5月に入って借金を完済して。とくに若いピッチャーが大活躍しているので、ひょっとしたらと思っているんですけどね。防御率はセリーグでナンバーワンですから(※取材時点) 。打線は下から数えたほうが早いですけど(笑)」

プロレスラー・佐々木貴

 凶器を振りかざし、血を流しながら戦うデスマッチ。そんなデスマッチの団体FREEDOMSの代表・佐々木貴は、熱狂的なベイスターズファンだ。その入れ込みようはすごい 。団体のオリジナルタオルを、青地に白い文字で「We ☆ FREEDOMS」、つまり、ベイスターズのタオル「We ☆ YOKOHAMA」と同じ仕様にしてしまったほどだ。プロレス界きってのベイスターズファンである佐々木に、その愛を語ってもらった。

――ベイスターズを好きになったきっかけは?

「岩手の山奥で育ったので、娯楽と言えば野球しかありませんでした。でも当時、東北には野球チームがなかったんですよ。毎日テレビで巨人戦はやっているけど、地元にで応援するチームがあったらなぁと、ずっと思っていました。そんななか、高校を卒業して、神奈川県の大学に進学したんです。そこで横浜スタジアムに行ったとき、『これがおらが村の野球チームじゃねえか!』と思ったんです」

――“弱い”とされるチームですが。

「大学1年のとき初めてできた彼女が、いまの嫁さんですが、生粋の横浜ファンで。ベイスターズが負けて僕がイライラしていると、『これだからもぐりは』と言われました(笑)。ベイスターズは負けて当たり前、勝ったらラッキー。1回や2回負けたくらいで一喜一憂していたら、本当のファンとは言えないよ、と。でもいまでもイライラします。それは、夢を見てしまっているからなんですよね。焦りがあるんです」

――焦りとは?

「38年に1回くらいしか優勝しないチームの優勝を、生きているうちに見たいという焦りです。僕は96年の秋にプロレスデビューしたんですが、98年にベイスターズが優勝したとき、デビュー2年目のペーペーだったんです。試合数も少ないし、ギャラも安いし、とにかくお金がなくて。その日の飯をどうしよう、電気が止められちゃったどうしよう、ということばかりで、その一年、ハマスタにはほとんど足を運べてなかったんです。ベイスターズが一番強かったときに、一番見ていないんですよ。なので、生きているうちに優勝を見たいという焦りがあるんですよね。38年後というと、自分は生きていないんじゃないか、という焦りです。去年はちょっと夢を見ましたけどね。終わってみたら最下位で、夢から覚めました(笑)」

――代表を務めるFREEDOMSと重ね合わせる部分はありますか?

「ありますね。勢いでやるところとか、みんながみんな優等生じゃないところとか。会場の盛り上がりと、横浜スタジアムの盛り上がりがかぶるところもあります。デスマッチをやっているので、ビックリするような凶器が出てきたときだったり、選手が期待以上の動きをしたときだったりの、お客さんの“待ってました”感。僕は選手に対して、好きなように暴れて、自分の持ち味を発揮してくれればいいと思っているので、そこもベイスターズの気質と似ているかもしれないです」

――ベイスターズの魅力はどこでしょうか?

「出来の悪い子具合ですね。強くなってほしいけど、面白味のないチームにはなってほしくない。面白味のあるチームなんですよ。豪快なホームランだったり、送りバントはめちゃめちゃ下手くそだけど、打ったらヒット、みたいな。去年までだったら、中畑監督の底抜けの明るさがあって、実力は伴わないけど勢いがデカい、というのが面白かったですね」

――『4522敗の記憶』の面白さとは?

「この本は、ベイスターズファンの教科書みたいな存在です。読み返して、『ああ、そうそう! そうだった!』ということが、いっぱい書かれているんですよ。そこまで野球に詳しくなかったけど、最近ベイスターズにハマったという人にはぜひ読んでもらいたい。歴史を知ることによって、愛が深まると思います。このチームを私が守らなきゃ、みたいな思いが絶対強くなると思います」

取材・文=尾崎ムギ子

■撮影協力/「ベースボール居酒屋リリーズ神田スタジアム
東京都千代田区内神田 3-22-10 竹内ビル 2F
TEL:03-3254-0185

【入船亭扇里・告知】
■7月30日(土)「続 扇里色 その九~暑中お見舞い申し上げます~」
15:00開場 15:30開演/日本橋 藪伊豆総本店 3階広間/2,000円/お問い合わせ
■8月10日(水)「新・悪事扇里を走る」
19時30分開演/高円寺・円盤/1,500円(1ドリンク付)/問:03-4291-3555

FREEDOMS・告知
■8月11日(木)「unchain night!」
18:30開場 19:00開演/新木場1stRING
■8月23日(火)「ダムズフェス2016 ~デスマッチあり、バーリトゥードあり、ルチャあり、ライヴあり、コントあり、宴あり~」
開場18:30 開始19:00/新木場1stRING