日本の平均年齢46.5歳に対しミャンマーは27.9歳! 世界経済の重要なポイント「新興アジア」の実像とは?

経済

公開日:2016/8/18


『私たちが失ったものがそこにある 希望の地としての新興アジア』(山田順/実務教育出版)

 ビジネスの世界では「脱・中国」が叫ばれ、「新興アジア」への進出がすでに加速中だ。経済はグローバル化しているので、関係ないように思えてもこれらは私達の生活に多少なりとも影響している。新興アジアとは、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ミャンマーといったASEAN(東南アジア諸国連合)の国々を本書では指している。

 東の端とはいえ、日本もアジアの一員。しかし、これらの国々についてどれくらいの理解や関心、親しみがあるだろうか。本書『私たちが失ったものがそこにある 希望の地としての新興アジア』(山田順/実務教育出版)では、各国を旅歩いている著者が、現地での肌感と各種データをもとにこれらの国の現状と展望を述べた、新興アジア入門ともいえる書だ。

 ASEAN諸国がなぜ経済成長できたのか。「安い賃金を求めてグローバル企業が進出した」、これは正しいが肝心なことが抜けている、と著者は指摘する。これらの国々は熱帯か亜熱帯に属し、一年中暑い。働けばすぐに汗だくになるようでは、高度経済成長など望めない。だから熱帯・亜熱帯アジアの経済発展の理由は、日本の高性能エアコンの普及によるもの、というのだ。

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昔は、暑いところの人々はみな怠け者と思われていた。(中略)そんなところに工場を建てても生産効率は上がらないと思われていた。しかし、日本のエアコンが、それが偏見だと証明したのだ。

 労働環境は生産性を左右する。通信や運輸以外にそんなことも要因になる。

 だが、なんといっても最大の要因は人口構成だろう。これらの国は、生産年齢人口が増える「人口ボーナス期」(15~64歳の生産年齢人口が、その他の人口の2倍以上ある状態)にある。生産力が強いのだ。例えば日本の平均年齢は46.5歳だがミャンマーは27.9歳である。日本の人口ボーナス期は10年以上前に終わっているが、ミャンマーでは2053年まで続くという。

 さて、一口に新興アジアといってもお国柄は様々だ。マレーシアなどは国の中でもマレー系なのか中国系なのかインド系なのかによって宗教も文化も異なるのだから、違いはあって当然だ。

 例えばフィリピン。経済が好調なのは女性が強いから、と著者は分析する。かつてフィリピンに行ったとき、官庁や企業で、役職クラスに女性が多いことに驚いたものだ、と。「世界男女平等ランキング」(2013年10月)で、136カ国中フィリピンはなんと5位。日本の105位とは大違いだ。フィリピンの女性はよく働くし、社会にも適応している。フィリピン企業の人間によれば「妊娠したから会社を辞めるなんてことは絶対にない」そうだ。

 時代の移り変わり は早い。情勢はめまぐるしく変わる。本書には2013年から書かれた記事が載っているが、当時と今とで事情がかわっていることもある(このため、記事の末尾に現時点の情報や見解が追記されている)。

 だが、今後しばらくは新興アジアの発展が世界経済の重要なポイントになることは間違いない。これらの国はどういう国で何が起こっているのか、新興アジアを理解する取っかかりとして本書をおすすめしたい。

文=高橋輝実