開祖誕生の地が、時を超えて猫の里親誕生の地『ねこでら』へ

暮らし

公開日:2016/10/15

「誕生寺」という名称の寺院は、日本にいくつかあります。もっとも有名だと思われるのが、浄土宗の開祖・法然上人の生誕地とされる、美作国(現在の岡山県)の「誕生寺」。JR津山線「誕生寺駅」の由来となった寺院です。ほかには、中将姫の生誕地とされる奈良の「誕生寺」、本門佛立宗の開祖・長松清風(日扇)生誕の地に建立された京都の「誕生寺」などがあります。

 福井県越前市にある曹洞宗の寺院「御誕生寺」も、その名の由来はやっぱり誕生です。曹洞宗には「永平寺」と「總持寺」と2つの大本山があり、永平寺を開いた道元禅師の出身は京都の深草。總持寺を開いた瑩山禅師の生誕地には福井県の坂井市(旧丸岡町)と越前市帆山町と2説あり、後者の場所に「御誕生寺」が建立されたのが昭和23年のことでした。

 その後、越前市庄田町に場所を変えて新たに建立され、現在の御誕生寺となったのです。御誕生寺に詳しくなったところで、本題に入りますと、その御誕生寺は別名「ねこでら」として頓に有名になり、その名もズバリ『ねこでら 猫がご縁をつなぐ寺』という本も出るまでになりました。

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『ねこでら 猫がご縁をつなぐ寺』(秀和システム)の写真から伝わるのは、日常そのもの。ドラマチックな瞬間は皆無で、ご住職の膝の上を3匹で占拠したり、参拝者のものと思われる大きなバイクを検品したり、お地蔵様の横で愛敬相をたたえて寝そべったり。のんびりと流れる、ねこでらの生活。しかし、彼らにとっての往生の地ではありません。



 瑩山禅師の生誕から750年あまり。平成の時代に再建された「御誕生寺」は、数多くの「猫の里親」が誕生する場所となっています。つまり、猫たちは里親との邂逅を果たすまでの間、ねこでらで一念回向しているのです。

御誕生寺の猫たちはワクチン接種や避妊、去勢を行い、一部の猫を除いて、里親さんに譲渡されます。(中略)これまでに270匹ほどの猫たちが里親さんとの縁を結びました。猫がつなぐ「縁結び」の場となっています。
『ねこでら』P52より

 一念回向とは『仏教語大辞典』によれば「修行に専念してその功徳をもって、ただひたすら救いを願い求めること」とあるように、猫としての修行に明け暮れを費やすことです。ただのんびりご飯を食べて、昼寝をしているだけのように見えるのは、人間の勘違いにほかなりません。「ねこでら」に至るまでの苦難の日々があり、ようやく苦難からの解放かと思いきや、気まぐれにやってくる人間の相手をしなければならないのですから。


 でも、その修行の結果に待っているのは、運命をともにする里親との出会いです。本書の猫たちの優しい表情を見ていると、私も含め煩悩にまみれた人間ができるせめてもの功徳は、ねこでらで待つ運命の猫を探しに行くことなのではないかと思われる次第です。

 ちなみに、本書『ねこでら』の売上の一部は御誕生寺の猫たちの保護活動に使われるとのことですので、Amazonでポチるだけでも、多少なりとも功徳になるようです。煩悩に苛まれている方には、特に一読をお勧めします。


文=猫ジャーナル