差別問題、権利者不明──。今では観られなくなったテレビアニメ・特撮の「封印作品」は、なぜ生まれたのか

マンガ

公開日:2016/11/21

『封印作品の謎 テレビアニメ・特撮編』(安藤健二/彩図社)

 2016年11月現在、東京MXでは『ウルトラセブン』が再放送されている。同作品は1967年10月からTBSで放送され、「ウルトラシリーズの最高傑作」と評するファンも多い。しかしこの『ウルトラセブン』を深く知っていくと、必ず「ある疑問」に突き当たる。それは第11話「魔の山へ飛べ」の次に放送されるのが第13話「V3から来た男」であることだ。つまりこの作品には「第12話」が存在しないのである。

 関連書籍にもおおよそ「第12話は欠番」と触れられる程度。本当に第12話は放送されたのだろうか? 結論からいえば、存在し放送もされた。しかし「ある理由」から現在に至るまで「封印」されてしまっているのだ。なぜそんなことが起こったのか。『封印作品の謎 テレビアニメ・特撮編』(安藤健二/彩図社)には、その経緯が詳しく述べられている。

 問題となる第12話のサブタイトルは「遊星より愛をこめて」。地球人、特に女性や子供の血液を求めて襲来したスペル星人を、ウルトラセブンが退治する──端的に説明すればこんな内容だ。普通のストーリーにも思えるが、なぜ地球人の血液が必要かという理由を知れば、封印理由の一端が見えてくる。実はスペル星人の血液は放射能で汚染されており、その治療のために清潔な地球人の血液を必要としたのだ。そう、この作品はいわゆる「原爆病」をテーマにしていたのである。

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 しかしこれがすぐさま「封印」に直結したかといえば、そうではない。実際に騒動が起こったのは、初回放送から3年が経過した1970年だった。小学館の『小学二年生』という雑誌の付録「かいじゅうけっせんカード」にスペル星人が登場し、その紹介文に「ひばくせい人」と書かれていたことが問題となったのだ。スペル星人の姿も体の所々に「ケロイド」のようなものが存在し、被爆者を連想させた。本件は全国の被爆者団体の知るところとなり、小学館のみならず映像を製作した「円谷プロダクション」にも抗議が殺到。結果として最初の抗議からわずか半年の間に、第12話は「封印」されてしまったのである。

 この騒動はストーリーそのものが理由になったわけではない。抗議した人々の中には、実際の映像を観ていない人もいたという。つまり「ひばくせい人」という表記と、スペル星人のデザインが問題視されたということだ。ファンの間からは封印解除の要望も根強いが、問題の大きさから円谷プロが応じる可能性は低いと思われる。

 差別表現は「封印」の大きな一因ではあるが、無論それだけが理由にはならない。本書では日本テレビ版『ドラえもん』も、また違った理由で封印されたと解説している。

 おそらく読者諸氏は『ドラえもん』といえばテレビ朝日を思い浮かべるはず。1979年に放送が始まり、37年経った現在も放送中の長寿アニメ番組だ。しかし遡ること6年前の1973年、日本テレビで『ドラえもん』のアニメが放送されていたことを知る者はほとんどいないだろう。それもそのはず、この日テレ版『ドラえもん』(以後「日テレ版」)は1979年を最後に、一切放送されていないからだ。

 その最後の放送となった富山テレビでの再放送は、わずか9回で終了。その理由は原作者の藤子・F・不二雄(藤本弘)氏(故人)が強硬に反対したからだ。藤本氏は「日テレ版」を全く気に入ってなかったらしく、今後も放送されることはないだろうという。さらにいえばこの作品を製作したアニメ会社「日本テレビ動画」の社長・渡辺清(通称・新倉雅美)が放送中に失踪したという不祥事もあった。その後に会社は解散し、著作権の帰属は不明のまま。仮に原作者が許可したとしても、放送するのは難しいと思われる。

 アニメや特撮に限らず、このように現在では観られない「封印作品」はかなり多く存在する。しかし時代と共に、問題がクリアになって日の目をみる作品も皆無ではない。最大の問題は「忘れ去られること」なのかもしれない。誰かが覚えていて問題解決に動けば、あるいは封印解除される可能性もある。もし運よく「封印作品」を観た記憶があったなら、ぜひそれを後世に伝えてほしい。それがいつの日か、その作品の再評価に繋がるかもしれないのだから──。

文=木谷誠