払わないのか? 払えないのか? 給食費未納の問題から考える「子どもの貧困」

社会

公開日:2016/11/22

『給食費未納 子どもの貧困と食生活格差(光文社新書)』(鳫 咲子/光文社)

 一時期、給食費未納の問題が世間を賑わせた。しかし、この問題は解決したわけではない。学校の苦労を思うと、頭が下がる。

 給食費未納の問題を考えるとき、「払わないのか」「払えないのか」によって性質が違うことをまず理解しておく必要がある。つまり、「保護者のモラルの問題」なのか、「保護者の経済的な問題」なのか、ということだ。

給食費未納 子どもの貧困と食生活格差(光文社新書)』(鳫 咲子/光文社)によると、文部科学省が2005年度に全数調査で行った給食費未納調査では、未納者数は小中学生全体の1.0パーセントに当たる全国約99,000人であり、未納総額は年間で約22億円(未納額割合は約0.5パーセント)。そして、学校の認識として「経済的な問題」が原因と見る事例は全体の約33パーセントに過ぎなかった。「保護者のモラル(責任感や規範意識の欠如)の問題」が原因と見る事例は約60パーセントを占める。直近の2012年度調査(抽出調査)でも、学校の認識としては、「経済的な問題」が約34パーセント、「保護者のモラル(責任感や規範意識の欠如)の問題」が約61パーセントと割合はほぼ変わらない。

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 世間も学校と同様に「給食費未納のほとんどのケースは、保護者のモラル欠如が原因」との認識だろうと思う。しかし、本書は次のようなデータも示して、この認識に疑問を投げかけている。

 文部科学省の同調査は、給食費未納の児童生徒の割合の推移も開示している。2012年度の数値を見ると、未納割合は小中とも低下傾向にあり、小中平均して約0.9パーセント。その内訳は、中学生1.2パーセント、小学生0.8パーセントと中学生のほうが多いく、過去を遡ってもそれは逆転しない。本書は、給食費未納のほとんどが「保護者のモラルの問題」だとするならば、この推移は「子どもが中学生になると親のモラルが低下するが、近年、親のモラルは改善している」と訳すことになり、違和感があると指摘する。文部科学省の「平成26年度子供の学習費調査」によれば、学校関係で必要な費用は小学生年間約10万円に対して、中学生は年間約17万円。中学生は、小学生に比べて、制服・通学代などの通学関係費、クラブ活動費などの教科外活動費、修学旅行・遠足・見学費などが高額になる。給食費未納は、「保護者の経済的な問題」が原因の大半を占めると考えるのが妥当だというのだ。

 実際には「保護者のモラルの問題」が未納の原因であるケースがあるにせよ、給食費を納めていないから修学旅行に連れて行かない、などといった対処は子どもに対する「行政による虐待」だと本書は批判している。1989年の国連総会において採択された「子どもの権利条約」には、子どもの人格を尊重しなければならないとある。

 本書は、「そもそも憲法で、義務教育は無償であるとうたわれながら、子どもが学校に通うためには、給食費をはじめ多くのお金がかかる」ことがおかしいとしている。子どもの医療費の無料化が先行しているが、同時に学校給食の無料化も推し進められることを本書は強く願っている。

文=ルートつつみ